【解析学】\(\,\cot\,\)の部分分数分解! 美しいヘルグロッツの技法による証明を解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では解析学における\(\,\cot\,\)の部分分数分解をヘルグロッツの技法(Herglotz trick)に従って証明します。
ほとんど初等的に\(\,\cot\,\)の部分分数分解を証明できる,かなり美しい手法です。
また\(\,\cot\,\)の部分分数分解は,ゼータ関数\(\,\zeta(z)\,\)の特殊値など応用例が多いので,この証明を機に覚えていただけると嬉しいです。
ぜひ読んでいってください。
目次
\(\cot\,\)の部分分数分解
\(\cot\,\)の部分分数分解
\(\pi \cot\pi z =\dfrac{1}{z}+\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\qquad(z\in \mathbb{C}\setminus \mathbb{Z})\)
\(\cot\)は右のような分数の和で表されるということですね。
ちなみに補足で証明していますが,
右辺の級数は広義一様収束するので,正則で項別微分などができることもこの等式の嬉しい点です。
この部分分数分解はリーマンのゼータ関数\(\,\zeta(z)\,\)の正の偶数上の値や,
保型形式であるアイゼンシュタイン級数\(\,G_k(z)\,\)の級数展開にも関係します。
また\(\,\sin\,\)の対数微分が\(\,\cot\,\)になることを利用して,\(\,\sin\,\)の無限積表示を得ることもできます。
これらの応用は改めて記事にするつもりなので,そちらをお待ちください。
次章からは\(\,\cot\,\)の部分分数分解をヘルグロッツの技法で証明していきましょう。
一応,複素解析学の留数定理を用いて証明することもできます。記事をお待ちください。
※右辺の級数\(\,\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\,\)は
よく\(\,\displaystyle \sum_{n\in \mathbb{Z}} \dfrac{1}{z+n}\,\)と書かれることがありますが,この表記には注意が必要です。
なぜなら\(\,\displaystyle \sum_{n\in \mathbb{Z}} \dfrac{1}{z+n}\,\)は絶対収束ではなく条件収束であるため,和の順序が重要だからです。
実際,絶対収束でないことは\(\,\displaystyle \lim_{n\to\infty} \Biggl|\dfrac{\frac{1}{n}}{\frac{1}{z+n}}\Biggr|=1\)より,
部分級数\(\,\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{z+n}\,\)が\(\,\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n}\,\)と同様に絶対収束しないことから分かります。
そのため文脈によっては\(\,\displaystyle \sum_{n\in \mathbb{Z}} \dfrac{1}{z+n}\,\)という表記は不適切な場合があるので,注意しましょう。
ヘルグロッツの技法(Helglotz trick)
この章では物理学者グスタフ・ヘルグロッツ(Gustav Gerglotz)による,
ヘルグロッツの技法(Herglot’s trick)を解説したいと思います。
記法として,左辺と右辺の関数をそれぞれ
\(f(z)=\pi \cot\pi z\)
\(g(z)=\dfrac{1}{z}+\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\)
とおきましょう。
補足より関数\(\,g(z)\,\)は広義一様収束するので,定義域上で正則性は保証されています。
このとき\(\,f(z)=g(z)\,\,(z\in \mathbb{C}\setminus \mathbb{Z})\,\)を示せば良いですね。
しかし一致の定理から実数に制限した\(\,\mathbb{R}\setminus \mathbb{Z}\,\)上で等式を示せば十分です。
そこで以下では\(\,\mathbb{R}\setminus \mathbb{Z}\,\)上で考えます。
\(\mathbb{R}\setminus \mathbb{Z}\,\)上の等式を次のSTEPで示していきましょう。
STEP1: \(\,f(z),g(z)\,\)は周期\(\,1\,\)の周期関数であることを示す。
STEP2: \(\,f(z),g(z)\,\)は奇関数であることを示す。
STEP3: \(\,f(z),g(z)\,\)が同じ関数等式
\(f(\frac{z}{2})+f(\frac{z+1}{2})=2f(z),\quad g(\frac{z}{2})+g(\frac{z+1}{2})=2g(z)\)
を満たすことを示す。
STEP4: \(\,h(z)\coloneqq f(z)-g(z)\,\)が\(\,\mathbb{R}\,\)上の連続関数に拡張できることを示す。
STEP5: \(\,h(z)=0\,\)であることを示し,\(\,f(z)=g(z)\,\)を得る。
STEP1: 周期性
STEP1
\(f(z),g(z)\,\)は周期\(\,1\)の周期関数である。
すなわち
\(f(z+1)=f(z),\quad g(z+1)=g(z)\quad(z\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z})\)が成り立つ。
まず\(\,f(z)=\pi \cot\pi z=\frac{\pi}{\tan \pi z}\)より,\(\,f(z)\,\)の周期性は明らかです。
\(g(z)\,\)については
部分和
\(\displaystyle g_N(z)\coloneqq \sum_{n=-N}^{N}\dfrac{1}{z+n}\)
について
となるため,
\(\displaystyle g(z+1)=\lim_{N\to\infty}g_N(z+1)=\lim_{N\to\infty} g_{N-1}(z)=g(z)\)
より示されます。\(\quad\square\)
STEP2: 奇関数性
STEP2
\(f(z),g(z)\,\)は奇関数である。
すなわち
\(f(-z)=-f(z),\quad g(-z)=-g(z)\quad(z\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z})\)が成り立つ。
先ほどと同様に\(\,f(z)\,\)が奇関数であることは自明です。
\(g(z)\,\)についても,先ほどの部分和\(\,g_N(z)\,\)について
となるため,
\(\displaystyle g(-z)=\lim_{N\to\infty}g_N(-z)=\lim_{N\to\infty} -g_{N}(z)=-g(z)\)
より示されます。\(\quad\square\)
STEP3: 関数等式
STEP3
\(f(z),g(z)\,\)は次の関数等式を満たす。
\(f(\frac{z}{2})+f(\frac{z+1}{2})=2f(z),\quad g(\frac{z}{2})+g(\frac{z+1}{2})=2g(z)\quad (z\in \mathbb{R}\setminus \mathbb{Z})\)
\(f(z)\,\)の関数等式に関しては三角関数の加法定理などから次のようにして示せます。
一方\(\,g(z)\,\)の関数等式は,再び部分和\(\,g_N(z)\,\)を考えると
となるので,\(\,N\to\infty\,\)とすることで\(\,g(\frac{z}{2})+g(\frac{z+1}{2})=2g(z)\,\)が得られます。\(\quad\square\)
STEP4: \(\,h(z)\coloneqq f(z)-g(z)\,\)の拡張
\(f(z),g(z)\,\)は\(\,\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}\,\)上の連続関数であったため,
\(h(z)\coloneqq f(z)-g(z)\,\)も\(\,\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}\,\)上の連続関数です。
この\(\,h(z)\,\)をさらに,実数\(\,\mathbb{R}\,\)上の連続関数に拡張することができます。
STEP4
\(h(z)\,\)は\(\,\mathbb{R}\,\)上の連続関数に拡張できる。
やり方は簡単です。
\(z=n\in \mathbb{Z}\,\)で\(\,h(z)\,\)を連続にしたいなら,関数の連続性の式
\(\displaystyle \lim_{z\to n} h(z)=h(n)\)
が成り立つように,\(\,\mathbb{Z}\,\)上の値\(\,h(n)\,\)を決定すれば良いからです。
そのため,\(\,\displaystyle \lim_{z\to n} h(z)\,\)を調べましょう。
STEP1より,\(\,f(z),g(z)\,\)は周期\(\,1\,\)の周期関数だったので,
その差の\(\,h(z)\,\)も\(\,\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}\,\)上で周期\(\,1\,\)の周期関数となります。
よって
\(\displaystyle \lim_{z\to n} h(z)=\lim_{z\to 0} h(z+n)=\lim_{z\to 0}h(z)\)
となるので,結局\(\,z=0\,\)における極限を調べれば良いですね。
ここで\(\,\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}\,\)において
\(\displaystyle h(z)=\pi\cot\pi z- \dfrac{1}{z}-\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\)
でした。
\(\pi\cot\pi z- \dfrac{1}{z}\,\)の部分については,テイラー展開より
\(\sin z= z+o(z^2)\)
\(\cos z= 1+o(z)\)
となることをを利用すると
(\(\,o\,\)はランダウ記号で\(\,\displaystyle\lim_{z\to 0}\tfrac{o(z^n)}{z^n}=0\,\)となる量)
となります(ロピタルの定理からも導出することができます※)。
また\(\,\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\,\)の部分については,
補足から得られる関数項級数の広義一様収束性から\(\,z=0\,\)で連続なので,
\(\displaystyle\lim_{z\to 0}\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)=\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{0+n}+\dfrac{1}{0-n}\biggr)=0\)
となります。
以上より\(\displaystyle \lim_{z\to n}h(z)=0 \)なので,
\(\,h(n)=0\,\,(n\in \mathbb{Z})\,\)と定めることで,\(\,h(z)\,\)を\(\,\mathbb{R}\,\)上の連続関数に拡張できることが分かりました。\(\quad\square\)
※ロピタルの定理から極限\(\displaystyle\lim_{z\to\infty}\biggl(\pi\cot\pi z- \dfrac{1}{z}\biggr)\,\)を求める場合次のようになります。
テイラー展開から極限を求めたときと同様に式変形して
\(\displaystyle\lim_{z\to 0}\biggl(\pi\cot\pi z- \dfrac{1}{z}\biggr)=\lim_{z\to 0}\dfrac{ z\cos z-\sin z}{z^2}\cdot \dfrac{z}{\sin z}\pi \)
となるので,極限不定部分\(\,\displaystyle\lim_{z\to 0}\dfrac{ z\cos z-\sin z}{z^2}\,\)を求めるためにロピタルの定理を使用すると
となり,
\(\displaystyle\lim_{z\to\infty}\biggl(\pi\cot\pi z- \dfrac{1}{z}\biggr)=0\)
と求められます。
STEP5: \(\,f(z)=g(z)\,\)の帰結
STEP1~4で得られたことを利用して,\(\,f(z)=g(z)\,\)を示し証明を完了させましょう。
そのためには,もちろん\(\,h(z)=0\,\)であることを示せば良いですね。
STEP4より\(\,h(z)\,\)は\(\,\mathbb{R}\,\)上連続であることから,区間\(\,[0,1]\,\)で最大値\(\,M\,\)を持ちます。
最大値を実現する適当な\(\,1\,\)点を\(\,z_0\in [1,0]\,\)と置きましょう。
STEP3の\(\,2\,\)つの関数等式の辺々を引くことで,
\(h(z)\,\)も\(\,\mathbb{R}\setminus\mathbb{Z}\,\)上において同様の関数等式を満たすことが分かるので,
\(z_0\not= 0,1 \,\)のとき,関数等式に\(\,z=z_0\,\)を代入して
\(f(\frac{z_0}{2})+f(\frac{z_{0}+1}{2})=2M\)
が得られます。
左辺は\(\,M\,\)の最大性から,\(\,f(\frac{z_0}{2}),\,f(\frac{z_{0}+1}{2})\leq M\,\)という不等式で
\(f(\frac{z_0}{2})+f(\frac{z_{0}+1}{2})\leq 2M\)
と押さえられます。
しかし先ほどの式から,この等号が成立しているので,元の不等式でも等号が成立することが分かり,
\(h(\frac{z_0}{2})=M\,\)が得られます。
これを繰り返すことにより,\(\,h(\frac{z_0}{2^n})=M\,\,(\forall n\in \mathbb{N})\,\)という式が得られます。
\(h(z)\,\)の連続性から\(n\to\infty \,\)とすることで,\(\,h(0)=M\,\)が得られます。
\(h(0)=0\,\)より\(\,M=0\,\)と求まります。
\(z_0=0,1\,\)のときも\(\,h(0)=h(1)=0\,\)から,結局\(\,M=0\,\)となります。
よって\(\,[0,1]\,\)における\(\,h(z)\,\)の最大値が\(\,0\,\)と分かりました。
STEP1より\(\,h(z)\,\)も周期\(\,1\,\)の周期関数となることから,
これは\(\,\mathbb{R}\,\)全体における\(\,h(z)\,\)の最大値が\(\,0\,\)であることを意味します。
よって\(\,h(z)\leq 0\,\,(z\in\mathbb{R})\,\)です。
ここで,もしも等号がどこか\(\,1\,\)点の\(\,z\,\)で成り立たなかったとすると,
STEP2より\(\,h(z)\,\)も奇関数となるので,
\(h(z)=-h(-z)\lt 0\)
より,\(\,h(-z)>0\,\)となり矛盾します。
そのため常に\(\,h(z)=0\,\,(z\in\mathbb{R})\,\)が成立することになり,題意は示されました。\(\quad\square\)
補足: 広義一様収束性
ここでは補足として\(\,\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}\,\)上の関数
\(g(z)=\dfrac{1}{z}+\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\biggl(\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}\biggr)\)
が\(\,\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}\,\)上で広義一様収束であることを示しましょう。
\(\mathbb{C}\setminus \mathbb{Z}\,\)内の任意のコンパクト集合\(\,K\,\)を取ってきます。
初めの有限項を除いても一様収束性に影響を及ぼさないので,
有限個の\(\,n\,\)を次のように除いていきます。
\(K\,\)はコンパクトなので,\(\,|z|\,\)は\(\,K\,\)上で最大値\(\,M\,\)を持ちます。
このとき\(\,2n-1\gt M^2\,\)かつ\(\,n\gt 1\,\)となるような,十分大きな\(\,n\,\)のみを考えることにします。
このようにすることで,三角不等式から\(\,K\,\)において
すなわち
\(0\lt \dfrac{1}{|z^2-n^2|}\lt\dfrac{1}{(n-1)^2} \)
が得られます。
よって級数の中の項\(\,\dfrac{1}{z+n}+\dfrac{1}{z-n}=\dfrac{2z}{z^2-n^2}\,\)は
\(\biggl|\dfrac{2z}{z^2-n^2}\biggr|\leq \dfrac{M}{(n-1)^2} \)
と収束する級数\(\,\displaystyle \sum_{n}^{\infty}\dfrac{M}{(n-1)^2}\,\)で押さえられます。
よってワイエルシュトラスの\(\,M\text{-}\)判定法から,\(\,g(z)\,\)は\(\,K\,\)において一様に収束します。
したがって\(\,g(z)\,\)の広義一様収束性が示されました。\(\quad\square\)
まとめ
今回の記事では\(\,\cot\,\)の部分分数分解のヘルグロッツの技法(Herglotz trick)による証明を解説いたしました。
\(\cot\,\)の部分分数分解の応用や,留数定理を用いた別証明については改めて記事を書くので,そちらをお待ちください。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考図書
- \([1]\) Martin Aigner,Günter M. Ziegler.”Proofs from THE BOOK”.Sixth Edition.Springer.2018出版.p.183-185.