【数論】\(\,p\,\)進指数関数とは? 定義・基本的な性質・証明まで解説

2025.01/23

こんにちは!半沢です!

今回の記事では数論における\(\,p\,\)進指数関数(p-adic exponential function)について解説します。

\(p\,\)進体\(\,\mathbb{Q}_p\,\)自体が奇妙な空間なので,
実数上と異なり\(\,p\,\)進指数関数も等長写像であるなどの奇妙な性質を持ちます。

そんな\(\,p\,\)進指数関数の定義や基本的な性質とその証明について見ていきましょう!

ぜひ読んでいってください。

\(\,p\,\)進指数関数(p-adic exponential function)

定義

定義
\(D_p=\{x\in \mathbb{Z}_p: |x|_p \lt p^{-\frac{1}{p-1}}\}\,\)とおくことにする。
このとき\(\,p\,\)進指数関数\(\,\exp_p\)\(:D_p \longrightarrow \mathbb{Q}_p\,\)を次のように定義する。

\(\displaystyle \exp_p(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\)

定義域を\(\,D_p\,\)と定めている理由は,べき級数\(\,\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\,\)の収束域が\(\,D_p\,\)となるためです。

\(\exp_p\,\)の収束域にその証明を載せていますので,必要に応じてご参照ください。ルジャンドルの公式がかなり活躍します。

定義から収束域\(\,D_p\,\)は\(\,1\,\)を含まないことから,
実数\(\,e\,\)に対応する数が\(\,p\,\)進体\(\,\mathbb{Q}_p\,\)にはないという面白いことが分かりますね。

基本的な性質

性質\(\,[1]\,\)
\(x,y\in D_p\,\)なら\(\,x+y\in D_p\,\)で
\(\exp_p(x+y)=\exp_p(x)\exp_p(y)\,\)が成り立つ。

性質\(\,[2]\,\)
任意の\(\,x\in D_p\,\)について
\(|\exp_p(x)|_p=1\,\)
性質\(\,[3]\,\)
\(\exp_p\,\)は等長写像である。すなわち任意の\(\,x,y\in D_p \)について
\(|\exp_p(x)-\exp_p(y)|_p=|x-y|_p\,\)が成り立つ。

性質\(\,[4]\,\)
\(\mathrm{Im}(\exp_p)=1+D_p\,\)で,
終域を\(\,1+D_p\,\)に制限した\(\,\exp_p:D_p \to 1+D_p\,\)は同型写像である。
ただし\(\,D_p\,\)は加法群,\(\,1+D_p\,\)は乗法群として考える。

性質\(\,[1]\,\)は実数\(\,\mathbb{R}\,\)においてでも成り立ちますが,
性質\(\,[2],[3],[4]\,\)は\(\,p\,\)進体\(\,\mathbb{Q}_p\,\)ならではの性質になります。

\(\exp_p\,\)が等長写像であることなどは興味深いですね。

\([1]\,\)の証明はこちら,\(\,[2],[3]\,\)の証明はこちらに載せています。

\([4]\,\)は証明に\(\,p\,\)進対数関数\(\,\log_p\,\)を用いるため,\(\,p\,\)進対数関数の記事を書くときに補足したいと思います。

まとめ

今回の記事では\(\,p\,\)進指数関数(p-adic exponential function)を解説いたしました。

定義域が\(\,\mathbb{Q}_p\,\)全体でないことや,等長写像であることなどの,実数の場合とは異なった面白い性質ばかりでしたね。

少々難しいですが,補足として証明も載せているので,良ければそちらもご覧ください。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

証明

\(\,\exp_p\,\)の収束域

ここでは次のことを示していきます。

べき級数\(\,\exp_p(x)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\,\)は\(\,D_p=\{x\in \mathbb{Z}_p: |x|_p \lt p^{-\frac{1}{p-1}}\}\,\)において収束し,
その他の点においては発散する。

まず\(\,D_p\,\)において収束することを示していきましょう。

ルジャンドルの公式から\(\,n!\,\)の\(\,p\,\)進付値について

\(v_p(n!)=\displaystyle \sum_{k=1}^{\infty}\biggl\lfloor\dfrac{n}{p^{k}}\biggr\rfloor\lt \sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{n}{p^{k}}=\dfrac{n}{p-1}\,\)

と評価できるので,\(\,\sqrt[n]{\biggl|\dfrac{1}{n!}\biggr|_p}=\sqrt[n]{p^{v_p(n!)}}\lt p^{\frac{1}{p-1}}\,\)より

\(\displaystyle\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{\biggl|\dfrac{1}{n!}\biggr|_p}\leq p^{\frac{1}{p-1}}\)

したがってコーシー–アダマールの定理(wiki)(※\(\,\mathbb{Q}_p\,\)でも成り立ちます)より,
\(\exp_p(x)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\,\)の収束半径は\(\,p^{-\frac{1}{p-1}}\,\)以上です。

ゆえに\(\,D_p\,\)において収束することは示されました。

続いて\(\,x\not\in D_p\,\),すなわち\(\,|x|_p\geq p^{-\frac{1}{p-1}}\,\)となる点\(\,x\in \mathbb{Q}_p\,\)において発散することを示していきましょう。

\(n=p^{m}\,\,(m\in \mathbb{N})\,\)において,再びルジャンドルの公式から

\(v_p(n!)=\displaystyle \sum_{k=1}^{\infty}\biggl\lfloor\dfrac{p^{m}}{p^{k}}\biggr\rfloor= \sum_{k=1}^{m}p^{m-k}=\dfrac{p^{m}-1}{p-1}\,\)

となることと,\(\,|x|_p\geq p^{-\frac{1}{p-1}}\Leftrightarrow v_p(x)\leq \dfrac{1}{p-1}\,\)を利用すれば,

\(v_p\biggr(\dfrac{x^n}{n!}\biggl)=nv_p(x)-v_p(n!)\leq \dfrac{p^m}{p-1}-\dfrac{p^{m}-1}{p-1}=\dfrac{1}{p-1}\)

つまり\(\,v_p\biggr(\dfrac{x^n}{n!}\biggl)\leq \dfrac{1}{p-1}\Leftrightarrow \biggl|\dfrac{x^n}{n!}\biggr|_p\geq p^{-\frac{1}{p-1}}\,\)となります。

これは\(\,\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\not=0\,\)を意味するので,
その級数である\(\exp_p(x)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\,\)は発散します。

以上より題意は示されました。\(\quad\square\)

性質\(\,[1]\,\)

性質\(\,[1]\,\)
\(x,y\in D_p\,\)なら\(\,x+y\in D_p\,\)で
\(\exp_p(x+y)=\exp_p(x)\exp_p(y)\,\)が成り立つ。

上の性質\(\,[1]\,\)の証明を行っていきます。

まず\(\,x,y\in D_p \Rightarrow x+y\in D_p\,\)を確認しましょう。

\(|x|_p,|y|_p\lt p^{-\frac{1}{p-1}}\,\)と\(\,|\cdot|_p\,\)が非アルキメデス的であることから

\(|x+y|_p\leq \max\{|x|_p,|y|_p\}\lt p^{-\frac{1}{p-1}}\)

となり,\(\,x+y\in D_p\,\)であることが示されました。

そこで\(\,\exp_p(x+y)\,\)を考えることができ,次の式変形が成り立ちます。

したがって題意は示されました。\(\quad\square\)

性質\(\,[2],[3]\,\)

性質\(\,[2]\,\)
任意の\(\,x\in D_p\,\)について
\(|\exp_p(x)|_p=1\,\)
性質\(\,[3]\,\)
\(\exp_p\,\)は等長写像である。すなわち任意の\(\,x,y\in D_p \)について
\(|\exp_p(x)-\exp_p(y)|_p=|x-y|_p\,\)が成り立つ。

上の性質\(\,[2],[3]\,\)を証明を行っていきましょう。

そのためには任意の\(\,x\in D_p\,\)について

\(|\exp_p(x)-1|_p=|x|_p\,\)

を示せば十分であることを確認しましょう。

まず性質\(\,[2]\,\)について考えましょう。

\(\mathbb{Q}_p\,\)は超距離空間なので(分からない方は要望があれば超距離空間の記事を書きます),
\(\,3\,\)点\(\,0,\exp_p(x),1\,\)のなす三角形は二等辺三角形です。

ここで\(\,|x|_p\lt p^{-\frac{1}{p-1}}\lt 1\,\)より

\(|\exp_p(x)-1|_p\lt 1\,\)

であるので,\(\,|1|_p=1\,\)に注意すると,
三点\(\,0,\exp_p(x),1\,\)のなす三角形の最短辺は\(\,2\,\)点\(\,\exp_p(x),1\,\)を結ぶ辺になります。

超距離空間の性質から,三角形では最短辺以外の\(\,2\,\)辺の長さが等しくなります。

よって

\(|\exp_p(x)|_p=1\,\)

となり,性質\(\,[2]\,\)が得られました。

続いて性質\(\,[3]\,\)について考えましょう。

で示した性質\(\,[1]\,\)を使えば,任意の\(\,x,y\in D_p \)について

\(\exp_p(x)-\exp_p(y)=\exp_p(y)(\exp_p(x-y)-1)\)

であるので,さらに先ほど導いた性質\(\,[2]\,\)と\(\,|\exp_p(x)-1|_p=|x|_p\,\)を用いれば

\(|\exp_p(x)-\exp_p(y)|_p=|\exp_p(y)|_p|\exp_p(x-y)-1|_p=|x-y|_p\)

となり,性質\(\,[3]\,\)が得られました。

そこで残りは\(\,|\exp_p(x)-1|_p=|x|_p\,\)を示せば良いですね。

まず\(\,x\in D_p\,\)より\(\,v_p(x)\gt \dfrac{1}{p-1}\,\)を思い出しましょう。

またルジャンドルの公式(別ver.)から
自然数\(\,n\,\)を\(\,p\,\)進法で表示したのときの各桁の和を\(\,s\,\)とおくと,

\(v_p(n!)=\dfrac{n-s}{p-1}\,\)となることも思い出しましょう。

すると\(\,n\geq 2\,\)のとき(この仮定は以下の不等式で\(\,=\,\)を除くために必要です)

\(v_p\biggl(\dfrac{x^{n-1}}{n!}\biggr)=(n-1)v_p(x)-v_p(n!)>\dfrac{n-1}{p-1}-\dfrac{n-s}{p-1}=\dfrac{s-1}{p-1}\,\)

となります。

\(n\,\)は自然数で,\(\,p\,\)進法表示で\(\,1\,\)以上の数となるような桁が存在するので\(\,s\geq 1\,\)です。

よって上の不等式は結局

\(v_p\biggl(\dfrac{x^{n-1}}{n!}\biggr)>0\Leftrightarrow \biggl|\dfrac{x^{n-1}}{n!}\biggr|_p\lt 1\)

となります。右側の式の両辺に\(\,|x|_p\,\)をかけて

\(\biggl|\dfrac{x^{n}}{n!}\biggr|_p\lt |x|_p\,\,(n\geq 2)\)

となります。これを利用すると,超距離空間の級数の不等式から

\(|(\exp_p(x)-1)-x|_p=\displaystyle \biggl|\sum_{n=2}^{\infty}\dfrac{x^{n}}{n!}\biggr|\leq \max_{n\geq 2}\biggl|\dfrac{x^{n}}{n!}\biggr|_p\lt |x|_p\)

つまり不等式\(\,|(\exp_p(x)-1)-x|_p\lt |x|_p\,\)が得られます。

\(3\,\)点\(\,\exp_p(x)-1,x,0\,\)からなる三角形を超距離空間で考えると,
先程の不等式は\(\,2\,\)点\(\,\exp_p(x)-1,x,\,\)を結ぶ辺が最短辺であることを意味します。

よって

\(\,|\exp_p(x)-1|_p= |x|_p\,\)

が得られます。

以上より題意は示されました。\(\quad\square\)

参考図書

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