【数論】アルキメデス絶対値とは? 定義・具体例から名前の由来まで解説

2024.10/23

こんにちは!半沢です!

今回の記事では数論におけるアルキメデス絶対値(Archimedean absolute value)について解説したいと思います。

\(p\,\)進数に関連する\(\,p\,\)進絶対値を捉える際にも重要になる概念です。

今回の記事ではその定義・具体例から,なぜ“アルキメデス”の名前が入っているのかについて詳しく解説していきたいと思います。

ぜひ読んでいってください。

アルキメデス絶対値(Archimedean absolute value)

まずは定義から確認していきましょう。

定義

定義
体\(\,K\,\)上の絶対値\(\,|\cdot|\,\)で以下の不等式を満たさないものをアルキメデス絶対値と呼び,
みたす場合は非アルキメデス絶対値と呼ぶ。

\(|x+y|\leq \max\{|x|,|y|\}\,\,\,(\,\forall x,y\in K)\) (強三角不等式)

ややこしいですが強三角不等式を満たさない場合をアルキメデス絶対値,
満たす場合をアルキメデス絶対値と呼ぶことに注意しましょう。

定義を理解するために次節で具体例を確認していきましょう。

具体例

まず最も簡単な例として有理数体\(\,\mathbb{Q}\,\)上の普通の絶対値\(\,| \cdot |\,\)はアルキメデス的です(もちろん実数体\(\,\mathbb{R}\,\)上などでも可です)。

なぜなら\(\,|1+1|=2,\,\, \max\{|1|,|1|\}=1\,\)より

\(|1+1|\not\leq \max\{|1|,|1|\}\)だからです。

反対に非アルキメデス絶対値の簡単な例として,
任意の体\(\,K\,\)において,次の式で定義される自明な絶対値\(\,| \cdot |_{trivial}\,\)が挙げられます。

\(|x|_{trivial}=\begin{cases} 1 & (x\not=0) \\ 0 & (x=0) \end{cases} \quad (\forall\, x \in K)\)

実際に\(\,x=0\,\)のときは強三角不等式は常に成り立つので,
\(x\not=0\,\)の場合について考えると\(\,|x|_{trivial}=1\,\)より

\(|x+y|_{trivial}\leq 1 =|x|_{trivial}=\max\{|x|_{trivial},|y|_{trivial}\}\)

となり確かに強三角不等式を満たします。

その他,非アルキメデス的な例として\(\,p\,\)進絶対値\(\,|\cdot|_p\,\)が挙げられます。

\(p\,\)進絶対値が強三角不等式を満たすことの証明は,\(\,p\,\)進数に関する記事を書いたときにそこに載せる予定なので省略します。

簡単な証明なので,気になる方は参考図書\([1]\)などを読むとよいでしょう。

具体例を確認したところで,次節では“アルキメデス”が名前に入っている由来に迫っていきましょう。

なぜ“アルキメデス”?

私が上で与えたアルキメデス絶対値の定義のままだと,
“アルキメデス”が名前に入っている由来が分かりにくいので下のように同値変形します。

体\(\,K\,\)上の絶対値\(\,|\cdot|\,\)について次の\(\,2\,\)条件は同値である。

\((\,\mathrm{i}\,)\;\!\,\,|\cdot|\,\)がアルキメデス的である。
\((\,\mathrm{ii}\,)\,|\cdot|\,\)が次のアルキメデスの性質を持つ。

アルキメデスの性質
任意の\(\,x,y\in K\,\,(x\not=0)\,\)に対して,\(\,|nx|>|y|\,\)となる自然数\(\,n\,\)が存在する。

証明は補足で行っているので,そちらをご覧ください。

ところで,このアルキメデスの性質は何か見覚えがありますね。

そうです!大学初年度の微分積分学の最初に習うアルキメデスの原理に似ています。

アルキメデスの原理
任意の実数\(\,x,y\in \mathbb{R}\,\,(x>0)\,\)に対して,\(\,nx\gt y\,\)となる自然数\(\,n\,\)が存在する。

つまりアルキメデス絶対値は,
アルキメデスの原理と似た性質を持つので“アルキメデス”が名前に入っているわけですね。

ちなみにアルキメデスの原理に“アルキメデス”と入っているのは,
アルキメデスが球の体積や表面積を求めた著作の中でこれを議論の出発点としたかららしいです(参考図書\([2]\))

※もう少し詳しく言えばアルキメデスの原理と,ここで述べたアルキメデスの性質は何らかの「共通の性質」を持っているので,“アルキメデス”が名前に入っているというのが正確です。

その「共通の性質」についてはアルキメデスの性質(Wiki)をご覧ください。

まとめ

今回の記事ではアルキメデス絶対値を解説いたしました。

なぜ“アルキメデス”の名前が入っているのかを理解していただけたら,筆者としては一番嬉しいです。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

補足

ここではなぜ“アルキメデス”?で述べた次の同値条件の証明を行っていきましょう。

体\(\,K\,\)上の絶対値\(\,|\cdot|\,\)について次の\(\,2\,\)条件は同値である。

\((\,\mathrm{i}\,)\;\!\,\,|\cdot|\,\)がアルキメデス的である。
\((\,\mathrm{ii}\,)\,|\cdot|\,\)が次のアルキメデスの性質を持つ。

アルキメデスの性質
任意の\(\,x,y\in K\,\,(x\not=0)\,\)に対して,\(\,|nx|>|y|\,\)となる自然数\(\,n\,\)が存在する。

ここで上の同値条件を示す中間地点として次の条件\(\,(\,\mathrm{iii}\,)\,\)を導入します。

\((\,\mathrm{iii}\,)\,|n|\gt 1\,\)となる自然数\(\,n\,\)が存在する。

この中間地点を経由する,
つまり\((\,\mathrm{i}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,),\,\,(\,\mathrm{ii}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)を示すことで証明を行っていきます。

まずは簡単な\(\,(\,\mathrm{ii}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)から示していきましょう。

\((\,\mathrm{ii}\,)\Rightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)については,
アルキメデスの性質において\(\,x=y=1\,\)とすれば明らかです。

次に\(\,(\,\mathrm{ii}\,)\Leftarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)について考えましょう。

\((\,\mathrm{iii}\,)\,\)より\(\,|n|\gt 1\,\)となる自然数\(\,n\,\)を取ることができます。

ここで任意の\(\,x,y\in K\,\,(x\not=0)\,\)について,\(\,x\not=0\,\)より\(\,\biggl |\dfrac{y}{x}\biggr |\,\)を考えることができます。

このとき\(\,|n|\gt 1\,\)より,自然数\(\,m\,\)を十分に大きくすることで\(\,|n^{m}|=|n|^{m}\gt \biggl |\dfrac{y}{x}\biggr |\,\)とできます。

よって両辺に\(\,|x|\,\)をかけることで
任意の\(\,x,y\in K\,\,(x\not=0)\,\)に対して,\(\,|n^{m}x|\gt |y|\,\)となる自然数\(\,n^{m}\,\)の存在が言えました。

以上より\(\,(\,\mathrm{ii}\,)\Leftarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)が示され,\(\,(\,\mathrm{ii}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)の証明は完了です。

続いて\((\,\mathrm{i}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)の証明を行っていきましょう。

まず\((\,\mathrm{i}\,)\Rightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)についてです。かなり技巧的な証明です。

対偶法により示します。
つまり「\(\,|n|\leq 1\,\,(\forall n\in \mathbb{N})\Rightarrow |\cdot|\,\)は非アルキメデス的である」を証明します。

任意の\(\,x,y\in K\,\)を取ってきます。

\(\,|x|\geq |y|\,\)としても一般性を失いません。このとき,もちろん\(\,\max\{|x|,|y|\}=|x|\,\)です。

任意の自然数\(\,m\,\)について,二項定理と三角不等式を使って以下のように式変形できます。

\(\displaystyle |x+y|^{m}=\biggl |\sum_{k=0}^{m} {}_{m}\mathrm{C}_{k}x^{k}y^{m-k}\biggr|\leq \sum_{k=0}^{m} |{}_{m}\mathrm{C}_{k}| |x|^{k}|y|^{m-k}\)

ここで\(\,{}_{m}\mathrm{C}_{k}\,\)は自然数なので,\(\,|{}_{m}\mathrm{C}_{k}|\leq 1\,\)です。さらに\(\,|x|\geq |y|\,\)より

\(\displaystyle |x+y|^{m}\leq \sum_{k=0}^{m} |x|^{k}|y|^{m-k} \leq (m+1)|x|^{m}= (m+1)(\max\{|x|,|y|\})^{m}\)

つまり\(\,|x+y|^{m}\leq (m+1)(\max\{|x|,|y|\})^{m}\,\)が成り立ちます。

両辺で\(\,m\,\)乗根を取れば,\(\,|x+y|\leq \sqrt[m]{m+1}\,\max\{|x|,|y|\}\,\)となります。

\(m\,\)は任意の自然数なので\(\,m\to \infty\,\)を考えることができ,このとき\(\,\sqrt[m]{m+1}\to 1\,\)ですので,

強三角不等式\(\,|x+y|\leq \max\{|x|,|y|\}\,\)が得られ,\((\,\mathrm{i}\,)\Rightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)が示されました。

逆の\((\,\mathrm{i}\,)\Leftarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)については簡単で,
\((\,\mathrm{iii}\,)\,\)より\(\,|n|\gt 1\,\)となる自然数で最小のもの\(\,n_0\,\)を取ることができます。

\(|1|=1\,\)より少なくとも\(\,n_0\gt 2\,\)なので,\(\,n_0-1\,\)も自然数です。

故に最小性より\(\,|n_0-1|\leq 1\,\)となり,\(\,1=\max\{|n_0-1|,|1|\}\,\)です。

このとき\(\,|(n_0-1)+1|=|n_0|>1=\max\{|n_0-1|,|1|\}\,\)となり,
これは強三角不等式が成り立たないことを表していますね。

よって\((\,\mathrm{i}\,)\Leftarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)は示され,\((\,\mathrm{i}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{iii}\,)\,\)の証明も完了しました。

したがって\((\,\mathrm{i}\,)\Leftrightarrow(\,\mathrm{ii}\,)\,\)は示されました。\(\,\quad\square\,\)

参考図書

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