【位相幾何学】ブラウワーの不動点定理とは? 主張・証明・応用例までふんだんに解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では位相幾何学におけるブラウワーの不動点定理(Brouwer’s fixed-point theorem)について解説したいと思います。
ブラウワーの不動点定理は位相幾何学の花形の一つと言える定理です。
ブラウワーの不動点定理の主張・証明から,その応用例の一部までふんだんに解説します。
主張の面白さや応用例の豊富さをぜひ味わってみてください。
ブラウワーの不動点定理(Brouwer’s fixed-point theorem)
まずは定理の主張を確認しましょう。
主張
ブラウワーの不動点定理
\(X\,\)を\(\,n\,\)次元球\(\,B^{n}\,\)と同相な位相空間とすると,
任意の\(\,X\,\)上の自己連続写像は少なくとも一つ不動点を持つ。
もっと一般化した形(コンパクト凸集合に対する形)をブラウワーの不動点定理と呼ぶこともあります。
ブラウワーの不動点定理(一般化ver.)の主張・証明については補足に載せているので,気になる方はご覧ください。
証明
それでは証明です。次節で証明のイメージを解説しているので,分かりにくい方はそちらと照らし合わせながら読んでください。
まずは\(\,X=B^{n}\,\)の場合についてのみ示せばよいことを確認しましょう。
今\(\,X\,\)上の自己連続写像\(\,f\,\)について考えているとしましょう。
\(X\approx B^{n}\,\)より,その同相写像\(\,h:B^{n}\to X\,\)を用いれば
\(\,h^{-1}\circ f\circ h\,\)は\(\,B^{n}\,\)上の自己連続写像となります。
そのため,もし\(\,X=B^{n}\,\)の場合について示されていれば,この連続写像の不動点\(\,x_0\in B^{n}\,\)が存在します。
不動性より\(\,h^{-1}\circ f \circ h(x_0)=x_0\,\)
すなわち\(\,f(h(x_0))=h(x_0)\,\)が成り立ちます。
これは\(\,h(x_0)\in X\,\)が\(\,f\,\)の不動点であることを意味するので,
\(\,X=B^{n}\,\)の場合についてのみ示せばよいことが分かりました。
さて問題は\(\,X=B^{n}\,\)の場合に限られました。
続いて背理法によって示すために,
\(B^{n}\,\)上の連続関数\(\,f\,\)が不動点を持たないと仮定しましょう。
つまり\(\,f(x)\not=x\,\,(\,\forall x\in B^{n})\,\)ということです。
この性質を利用して次のようにして写像\(\,g:B^{n}\to S^{n-1}\,\)を定めることができます。
※\(\,S^{n-1}\,\)は\(\,(n-1)\,\)次元球面のことです。
まず\(\,x\in B^{n}\,\)について
\(f(x)\,\)から\(\,x\,\)へ延ばした半直線を引きます(ここに\(\,f(x)\not=x\,\)を用いています)。
そしてその半直線と\(\,S^{n-1}\,\)の交点を\(\,g(x)\,\)として定めます。
今の説明はかなり定性的なので,
ここからはもっと具体的に\(\,g\,\)について考えていきましょう。
まず「\(\,f(x)\,\)から\(\,x\,\)へ延ばした半直線」を表す式は
\(f(x)+t(x-f(x))\,\,(t\gt 0)\)
ですね。
\(t\not=0\,\)とすることで,点\(\,f(x)\,\)はこの半直線から除いていることに注意してください。
よって「半直線と\(\,S^{n-1}\,\)の交点」は
\(y=f(x)+t(x-f(x))\,\,(t\gt 0)\,\)かつ\(\,\|y\|=1\,\)
を満たす\(\,y\,\)となるはずです。
つまり写像\(\,g\,\)は\(\,g(x)=y\,\)として定められます。
写像\(\,g\,\)が厳密に定まっているかを確認するため,
これを満たす\(\,y\,\)が存在し一意的であることを見ていきましょう
(概要だけ理解したい方はここは飛ばしてよいです)。
\(y\,\)の存在と一意性を示すには
\(\|f(x)+t(x-f(x))\|=1\,\,(t\gt 0)\)
を満たす\(\,t\,\)の存在と一意性を示せばよいですね。
\(\|f(x)+t(x-f(x))\|=1\,\)の両辺を\(\,2\,\)乗して計算を進めると,最終的に\(\,t\,\)の方程式
\(t^{2}\|x-f(x)\|^{2}-2t\langle f(x),f(x)-x\rangle + \|f(x)\|^{2}-1=0\)
に帰着することが分かります。
\(f(x)\not=x\,\)より\(\,\|x-f(x)\|^{2}\not=0\,\)なので,これは常に\(\,2\,\)次方程式です。
この方程式の判別式を\(\,d\,\)とおくと,
\(\tfrac{d}{4}=\langle f(x),f(x)-x \rangle^{2}+\|x-f(x)\|^{2}(1-\|f(x)\|^{2})\)
となり\(\,f(x)\in B^{n}\,\)より\(\,\|f(x)\|\leq 1\,\)ですので,\(\,d\geq 0\,\)となり\(\,2\,\)つの実数解\(\,\alpha,\beta\,\)を持つことが分かります。
解と係数の関係から
\(\alpha\beta=\dfrac{\|f(x)\|^{2}-1}{\|x-f(x)\|^{2}}\leq 0\)
となります。
この不等式の等号が成立しているとき,\(\,\|f(x)\|=1\,\)となるので方程式は
\((t\|x-f(x)\|^{2}-2\langle f(x),f(x)-x\rangle)t=0\)
となり,もう一方の解は\(\,\dfrac{2\langle f(x),f(x)-x\rangle}{\|x-f(x)\|^{2}}\,\)となります。
この解の符号について調べましょう。
\(\langle f(x),f(x)-x\rangle= 1 \,- \,\langle f(x),x\rangle \)
であり,シュヴァルツの不等式より
\(\langle f(x),x\rangle \leq \|f(x)\|\|x\|\leq 1\,\)
です。
しかし\(\,f(x)\not=x\,\)より,等号が成立しないことが分かるので\(\,\langle f(x),x\rangle \lt 1\,\)です。
※ここはやや行間が跳んでいるので,分かりにくいかもしれません。単位円板の図を描いて等号が成立するときはどのようになるときかを考えると分かりやすいです。分からない方が多かった場合加筆します。
これより先程の解の符号は正になることが分かります。
以上をまとめると\(\,\alpha\beta \leq 0\,\)とその等号が成立するときの考察から,
方程式\(\,\|f(x)+t(x-f(x))\|=1\,\,(t\gt 0)\,\)を満たす\(\,t\,\)は存在し,ただ一つであることが分かりました。
またこの\(\,t\,\)は方程式\(\,t^{2}\|x-f(x)\|^{2}-2t\langle f(x),f(x)-x\rangle + \|f(x)\|^{2}-1=0\,\)の実数解のうち大きい方であることも分かるので
\(t=\dfrac{\langle f(x), f(x)-x\rangle + \sqrt{\langle f(x), f(x)-x\rangle^{2}+\|x-f(x)\|^{2}(1-\|f(x)\|^{2})}}{\|x-f(x)\|^{2}}\)
という具体的表式も分かります。
この\(\,t\,\)は\(\,x\,\)により定まるので,\(\,t(x)\,\)と書くことにすると写像\(\,g\,\)も
\(g(x)=f(x)+t(x)(x-f(x))\)
と具体的に書くことができます。
この表式から分かることとして\(\,g\,\)は連続関数\(\,f\,\)と\(\,+,-,\div,\times,\sqrt{\quad}\,\)により構成されているので
\(g\,\)は連続関数であることが分かります。
また\(\,g\,\)は明らかに\(\,S^{n-1}\,\)上の点を不変に保ちます。
このことを定式化すると,包含写像\(\,i:S^{n-1}\to B^{n}\,\)を用いて\(g\circ i = id_{S^{n-1}}\)ということです。
これらの連続写像から誘導される群準同型を考えることで,
以下のような\(\,(n-1)\,\)次ホモロジー群間の可換図式が得られます。
しかし\(\,n\geq 2\,\)のとき\(\,H_{n-1}(B^{n})=\{0\}\,\)より,\(\,g^{\ast}\,\)は零写像となるしかなく,これは先ほどの図式の\(\,g^{\ast}\circ i^{\ast} = id_{H_{n-1}(S^{n-1})}\,\)に矛盾します。
\(n=1\,\)のときも\(\,id_{H_{0}(S^{0})}\,\)は\(\,H_{0}(S^{0})\,\)の同型写像なので,
\(g^{\ast}\circ i^{\ast} = id_{H_{0}(S^{0})}\)より\(\,g^{\ast}\,\)は全射である必要があります。
しかし\(\,H_{0}(S^{0})\cong \mathbb{Z}^{2},H_{0}(B^{1})\cong \mathbb{Z}^{1}\,\)であるので,\(\,g^{\ast}\,\)は全射となることはないです。
以上より矛盾が導かれるので,背理法により題意は示されました。\(\quad\square\)
今回の証明はホモロジー群を用いて証明を行いました。
低次元に限ればもう少し簡単に示すことができます。
例えば\(\,n=1\,\)の場合には中間地の定理を用いて簡単に示すことができます。
またシュペルナーの補題という離散版ブラウワーの不動点定理のようなものを用いて,組み合わせ論的に証明することも可能です。
\(n=2\,\)の場合のシュペルナーの補題を用いた証明は理解していますので,要望が多ければ別の記事で解説したいと思います。
証明のイメージ
この節では前節のブラウワーの不動点定理の証明のイメージについて解説したいと思います。
あくまで筆者のイメージですので,信じるかは読者にお任せします。よりよいイメージがある方はぜひ教えてください。
\(X=B^{n}\,\)の場合について示せばよかったので,ここでもその設定で考えましょう。
証明ではここから\(\,B^{n}\,\)上の連続写像\(\,f\,\)が不動点を持たないとすることにより,
\(\,S^{n-1}\,\)の点を不変に保つような連続写像\(\,g:B^{n}\to S^{n-1}\,\)を作り出しました。
この\(\,g\,\)は穴のない図形\(\,B^{n}\,\)から穴を作り出すような操作をしていると解釈できます。
そのため包含写像\(\,i:S^{n-1}\to B^{n}\,\)により一旦は埋められた穴を,\(\,g\,\)に通す,すなわち合成\(\,g\circ i =id_{S^{n-1}}\,\)を考えることで,穴を不変に保つことができたわけです。
しかし連続的変形では穴の数は保たれるので,穴を作り出す連続写像\(\,g\,\)というものは空想の産物となるというわけです。
結局は連続的変形によって穴を作り出せないということですね。
このようなイメージに立てば,
不動点は「穴を埋めるふた」として解釈するのが自然かと思います。
分かりずらい方は\(\,B^{n}\,\)上の自己連続写像として,\(\,B^{n}\,\)上の点を原点中心に適当な角度だけ回転させるようなものを考えると分かりやすいかもしれません。
このときの不動点は原点のみであることに注目しましょう。
以上が私のブラウワーの不動点定理のイメージですが,いかがだったでしょうか?
このイメージよりもより良いイメージがあるかもしれないので,もし知っている方はぜひ教えていただきたいです。
応用
この章ではブラウワーの不動点定理の応用について軽く見ていきましょう。
ペロン・フロベニウスの定理
ブラウワーの不動点定理を用いることで,
線形代数学におけるペロン・フロベニウスの定理の一部を証明することができます。
ペロン・フロベニウスの定理の一部
\((\,\mathrm{i}\,)\) 正の正方行列は少なくとも一つ正の実数固有値を持つ。
\((\mathrm{ii})\) 非負の正方行列は少なくとも一つ非負の実数固有値を持つ。
このペロン・フロベニウスの定理は工学や経済学における安定問題を議論する際に役立つみたいです。
筆者がもう少し工学や経済学に精通したら,この辺のこと改めてを書きたいと思います。
それではブラウワーの不動点定理を用いて,ペロン・フロベニウスの定理を証明していきましょう。
証明の本質はどちらも変わりませんが,
まずは\(\,(\,\mathrm{i}\,)\,\)の正の場合から証明していきましょう。
\(A\,\)を任意の正の\(\,n\,\)次正方行列とします。
次のように定められる\(\,(n-1)\,\)単体\(\,\sigma\,\)を考えましょう。
\(\sigma=\{x=(x_1,x_2,\ldots,x_n)\in \mathbb{R}^{n} \,:\, \|x\|_1=1,\quad x_i\geq 0 \,\,(i=1,\ldots,n)\}\)
\(1\text{-}\)ノルム\(\,\|\cdot \|_1\,\)は\(\,\|x\|_1=\displaystyle \sum_{i=1}^{n}|x_i|\,\)のことです。
\(1\text{-}\)ノルム\(\,\|\cdot \|_1\,\)になじみのない方は,\(n=1,2,3\,\)の簡単な場合を考えると分かりやすいでしょう。
\(\sigma\,\)は\(\,(n-1)\,\)単体なので,もちろん\(\,(n-1)\,\)次元球\(\,D^{n-1}\,\)に同相です。
次に\(\,\sigma\,\)上の自己連続写像\(\,f\,\)を下のように定めることができることを確認していきましょう。
\(f(x)=\dfrac{Ax}{\|Ax\|_1}\,\,(x\in \sigma)\)
\(f(x)\in\sigma\,\)はノルムの性質や\(\,A\,\)が正であることから明らかなので,
上のように定められることを確認するために\(\,\|Ax\|_1\not=0\,\)を検討していきましょう。
\(x\in \sigma\,\)について\(\,\|x\|_1=1\,\)よりその成分の少なくとも一つは正です。
そして\(\,A\,\)が正より\(\,Ax\,\)の成分は全て正になります。
よって\(\,Ax\not=0\,\)より\(\,\|Ax\|_1\not=0\,\)です。
以上より\(\,D^{n-1}\,\)に同相な\(\,\sigma\,\)上の連続写像\(\,f\,\)を定めることができたので,
ブラウワーの不動点定理より不動点\(\,x_0\,\)が存在します。
その不動性から\(\,Ax_0=\|Ax_0\|_1 x_0\,\)が成り立ちます。
これは\(\,x_0\,\)が\(\,A\,\)の固有値\(\,\|Ax_0\|_1\gt 0\)の固有ベクトルであることを表すので,\(\,(\,\mathrm{i}\,)\,\)について示されました。
続いて\(\,(\mathrm{ii})\,\)の非負の場合について証明していきましょう。
\((\,\mathrm{i}\,)\,\)のときと記号を同じように定めます。ただし\(\,A\,\)について,今度は非負であるとします。
まず\(\,\det A\not=0\,\)のときについて考えましょう。
このとき\((\,\mathrm{i}\,)\,\)と同様にして写像\(\,f\,\)を定めることができます。
ただしその定められる理由はやや異なります。
今回の場合は\(\,\det A\not=0\,\)より,\(\,A\,\)には逆行列が存在するので
\(\,Ax\not=0\,\)となり\(\,\|Ax\|_1\not=0\,\)が導かれるという論法です。
このようにして\(\,f\,\)を定めることができたので,\(\,(\,\mathrm{i}\,)\,\)と同様にして示すことができます。
残りの\(\,\det A=0\,\)の場合については必要十分条件
\(\det A=0 \,\Leftrightarrow \,\exist x_0 \in \mathbb{R}^{n}\,\,(Ax_0=0)\)
が知られています参考図書\([2]\)。
\(Ax_0=0\,\)は\(\,A\,\)は固有値\(\,0\,\)を持つことを意味しますので,この場合についても示されました。
以上よりペロン・フロベニウスの定理は示されました。\(\quad\square\)
その他
ブラウワーの不動点定理の前節で紹介したもの以外の応用についてもお話ししたいと思います。
ブラウワーの不動点定理はペロン・フロベニウスの定理以外にも
ゲーム理論における均衡点の存在を示したり,
ブラウワーの不動点定理を用いて代数学の基本定理を証明したりできます。
※ブラウワーの不動点定理を用いた代数学の基本定理は歴史上の問題で,誤証明が載っている場合があるので注意が必要です。
これらの応用が気になる方は参考文献\([3]\)をご覧になると良いでしょう。
ブラウワーの不動点定理の応用だけでなく,さらなる一般化や他の不動点定理についても解説しています。
まとめ
今回の記事ではブラウワーの不動点定理を解説いたしました。
この記事のボリュームからだけでも,ブラウワーの不動点定理の奥深さを知っていただけたなら筆者としては満足です。
この後補足として,ブラウワーの不動点定理(一般化ver.)の主張・証明も載せているので,気になる方はぜひご覧になってください。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
補足
ここではもっと一般化したブラウワーの不動点定理の主張・証明について触れていきたいと思います。
ブラウワーの不動点定理(一般化ver.)
\(X\,\)を\(\,\mathbb{R}^{n}\,\)内のコンパクト凸集合と同相な位相空間とすると,
任意の\(\,X\,\)上の自己連続写像は少なくとも一つ不動点を持つ。
[証明] \(X\,\)と同相なコンパクト凸集合を\(\,C\,\)とおく。
“証明”と同様の理由で\(\,X=C\,\)の場合についてのみ示せばよい。
そこで今\(\,C\,\)上の自己連続写像\(\,f\,\)について考えているとしよう。
\(C\,\)の有界性より半径を十分大きくすることで,原点中心で半径\(\,r\,\)の\(\,n\,\)次元球\(\,B_{r}^{n}\,\)について\(\,C\subset B_{r}^{n}\,\)としてよい。
このとき写像\(\,g:B_{r}^{n}\to C\,\)を次のように構成する。
任意の\(\,x\in B_{r}^{n}\,\)に対して,\(\,C\,\)はコンパクトなので
\(\|x-y\|=\displaystyle\min_{z\in C}\{\|x-z\|\}\)
となるような\(\,y\in C\,\)が存在する。
そこで\(\,g(x)=y\,\)と構成する。
しかし\(\,g\,\)のwell-defined性として\(\,y\,\)の一意性が問題となる。
また後のために\(\,g\,\)が連続であることも示したい。
よって今から\(\,g\,\)のwell-defined性と連続性を議論する流れとなる。
任意の\(\,x_1,x_2\,\)に対し,\(\,g\,\)により対応するものをそれぞれ\(\,y_1,y_2\,\)とおくことにする。
\(C\,\)の凸性より,任意の\(\,t\in [0,1]\)に対して\(y_1+t(y_2-y_1),y_2+t(y_1-y_2)\in C\)である。
よって\(\,g\,\)の定義から
\(\|x_1-(y_1+t(y_2-y_1))\|^2 \geq\|x_1-y_1\|^2\)
\(\|x_2-(y_2+t(y_1-y_2))\|^2 \geq\|x_2-y_2\|^2\)
が成り立つ。
この不等式を足し合わせて,整理すると
\(t\langle x_1-x_2,y_1-y_2 \rangle – t\|y_1-y_2\|^2+t^2\|y_1-y_2\|^2\geq 0\)
\(t\gt 0\,\)として両辺\(\,t\,\)で割り,\(\,t\to 0\,\)とすれば
\(\|y_1-y_2\|^2\leq \langle x_1-x_2,y_1-y_2\rangle \leq \|x_1-x_2\|\|y_1-y_2\|\)
である。
これより\(\,\|y_1-y_2\|\leq \|x_1-x_2\|\,\)であることが分かる。
この不等式より\(\,x_1=x_2 \Rightarrow y_1=y_2\,\)であるので,
\(\,y\,\)の一意性が分かり,\(\,g\,\)がwell-definedであることが分かる。
また\(\,\|g(x_1)-g(x_2)\|\leq \|x_1-x_2\|\,\)であるので,\(\,g\,\)の連続性も分かる。
まとめると連続写像\(\,g:B_{r}^{n}\to C\,\)を構成することができた。
ここで\(\,g\,\)は\(\,x\in C\,\)なら\(\,g(x)=x\,\)であることも押さえておこう。
包含写像\(\,i:C\to B_{r}^{n}\,\)を用いれば,\(\,i \circ f \circ g\,\)は\(\,B_{r}^{n}\,\)上の自己連続写像である。
よって\(\,n\,\)次元球の場合のブラウワーの不動点定理から不動点\(\,x_0\in B_{r}^{n}\,\)が存在する。
不動性から\(\,f(g(x_0))=x_0\,\)
\(f\,\)の値域は\(\,C\,\)に含まれるので\(\,x_0\in C\,\)であるので,\(\,f(g(x_0))=x_0=g(x_0)\,\)
これは\(\,g(x_0)\,\)が\(\,f\,\)の不動点になることを表しているので,題意は示された。\(\quad\square\)
参考図書
- \([1]\) 和久井道久.”代数トポロジーの基礎 基本群とホモロジー群”.Ver1.2.近代科学社.2021出版.294p.
- \([2]\) 斎藤正彦.”線形代数入門 基礎数学1″.初版.東京大学出版.1966出版.p.60
- \([3]\) P.V.Subrahmanyam.”Elementary Fixed Point Theorems”.Springer.2018.p302.
- \([4]\) 川越大輔.”Brouwerの不動点定理”.https://www-an.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~d.kawagoe/local/lectures/Brouwer/Brouwer.pdf.2024-09-28参照