【固体物理学】エバルト球殻とは? 発想・定義からラウエ法まで丁寧に解説

2024.11/03

こんにちは!半沢です!

今回の記事では固体物理学におけるエバルト球殻(Ewald’s sphere)について解説したいと思います。

エバルト球殻の発想・定義を解説し,エバルト球殻を通してラウエ法について学習することを目標としています。

ぜひ読んでいってください。

※ただしラウエ条件は学んだ前提として書いています。

ラウエ条件

エバルト球殻を理解するにはラウエ条件が欠かせないので,ここで軽く確認しておきたいと思います。

ラウエ条件
結晶によって回折が起こる必要条件は
散乱ベクトル\(\,\mathbf{K}\,\)と逆格子点を表すベクトル\(\,\mathbf{G}_{hkl}\,\)について

\(\,\mathbf{K}=\mathbf{G}_{hkl}\,\)

が成り立つことである。

この条件は既知としますので,知らない方は参考図書\([1]\)などで学ぶと良いでしょう。

※もしくは希望が多ければ,別の記事で解説したいと思います。

エバルト球殻(Ewald’s sphere)

導入

具体例として,
下の格子を基本単位格子とする単結晶について考えていきましょう。

図より,基本並進ベクトル\(\,\mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\,\)について

\(\mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\,\)の長さをそれぞれ\(\,a,b,c\,\),

\(\mathbf{b}\,\)と\(\,\mathbf{c}\,\),\(\,\mathbf{c}\,\)と\(\,\mathbf{a}\,\),\(\,\mathbf{a}\,\)と\(\,\mathbf{b}\,\)がなす角を\(\,\alpha,\beta,\gamma\,\)と表すことにすると

\(a=b=c,\,\,\alpha=\beta=90^{\circ},\,\,\gamma=120^{\circ}\,\)

ですね。

この単結晶を用いた次のような回折実験を考えましょう。

この実験では試料が単結晶である点と,入射波の波長は固定されている(ある決まった値になっている)点に注意していください。

次々節:ラウエ法や粉末法の場合だとこの設定に違いが生じるからです。

このとき本来の実験では単結晶の向きは不明ですが,原理を説明するために上の実験図では

単結晶の向きは基本並進ベクトル\(\,\mathbf{c}\,\)が紙面に対して垂直で,手前を向いている向きであるとします。

つまり実験装置を上(紙面に垂直で手前方向)から見ると,結晶構造は次のように見えます。

このときラウエ条件を考えるために,逆格子ベクトルの基本ベクトル\(\,\mathbf{a}^{\ast},\mathbf{b}^{\ast},\mathbf{c}^{\ast}\,\)を求めて逆格子空間を図示すると下図のようになります。

※逆格子基本ベクトルを求める計算は省略しました。希望が多ければ加筆します。

ラウエ条件では散乱ベクトル\(\,\mathbf{K}\,\)が登場するので,

まずこの図に散乱ベクトル\(\,\mathbf{K}\,\)を図示していきましょう。

ラウエ条件は\(\,\mathbf{K}=\mathbf{G}_{hkl}\,\)なので,この条件を図形的に考えるときに,

散乱ベクトルの始点が逆格子空間の原点\(\,\mathrm{O}\,\)と一致していると,
散乱ベクトルの終点が逆格子点に一致するかどうかだけ考えればよくなります。

ここで散乱ベクトル\(\,\mathbf{K}\,\)の定義は\(\,\mathbf{K}=\mathbf{k}_{\mathrm{out}}-\mathbf{k}_{\mathrm{in}}\,\)です(下図)。

※\(\,\mathbf{k}_{\mathrm{in}},\mathbf{k}_{\mathrm{out}}\,\)はそれぞれ入射・出射波数ベクトルです。

つまり入射波数ベクトルの終点が散乱ベクトルの始点になります。

そこで散乱ベクトルの始点を原点と一致させるため,

入射波数ベクトルの終点が原点と一致するように入射波数ベクトルを描きこみましょう。

次にさきほどの三角形の図を利用して,散乱ベクトルを図示するため,

出射波数ベクトルの始点を入射波数ベクトルの始点と重なるように出射波数ベクトルを書き込みましょう。

よって最後に散乱ベクトルを書き込むと

となります。

上の図から明らかですが,適当な入射波数\(\,k\,\)と検出方向\(\,\theta\,\)によって引き起こされた散乱ベクトルが,たまたま逆格子点に一致することは極めて稀です。

つまりこの状態では回折現象をほぼ観測できないということですね。

そこでできるだけ多く回折現象を検出するため,検出器を縦横無尽に動かしましょう。

下の図のように検出器を単結晶試料を中心に回転させます。

実際の実験では,
例えば回折点を記録できるスクリーンで単結晶試料の周りを囲むことなどに相当します。

このように検出器を動かすことは\(\,\theta\,\)を動かすことに対応するので,
この操作により散乱ベクトルの終点の軌跡を描くと次の図のようになります。

円に見えますが実際は検出器を\(\,3\,\)次元的に回転させますので,これは球殻になります。

この球殻のことをエバルト球殻と呼びます。

エバルト球殻上は散乱ベクトルの終点の軌跡ですので,
エバルト球殻上に逆格子点が存在するとラウエ条件から,その逆格子点に対応した回折点が観測されることが分かります。

ただしこのエバルト球殻を考えても,エバルト球殻上に逆格子点がたまたま位置することはまだ稀です。

実際上の図のエバルト球殻の半径を少し広げると,エバルト球殻上に原点以外の点はのらないことが分かります。

そこで次々節では\(\,\theta\,\)だけでなく入射波数\(\,k\,\)を変化させることで,この問題を解決することを考えていきます。

しかしせっかくエバルト球殻が出てきましたので,次節でエバルト球殻の定義を確認しましょう。

定義

定義
逆格子空間上で,終点が原点に一致するように描かれた入射波数ベクトル\(\,\mathbf{k}_{\mathrm{in}}\,\)に対して,
\(\,\mathbf{k}_{\mathrm{in}}\,\)の始点を中心とし,その波数\(\,k\,\)を半径とした球殻をエバルト球殻と呼ぶ。

イメージのために図も再掲しておきます。

前節で学習したエバルト球殻の性質を改めてまとめておきましょう。

  • エバルト球殻は検出器を動かしたときの散乱ベクトルの軌跡である。
  • エバルト球殻上に逆格子点がのっているのか,のっていないのかで,回折現象を理解できる。

ラウエ法

前々節で,波長(波数)を固定した状況ではエバルト球殻上に逆格子点が乗ることはほとんど起きないことを説明しました。

この問題を解決するために,入射波長を固定せず,連続的な波長を用いるラウエ法が考えられます。

実際の実験では連続X線を用いることでこれを実現します。

※もちろんこれ以外にも粉末法などの解決策はあります。希望が多ければ別の記事で解説します。

なぜ連続的な波長にするとよいのかをエバルト球殻を踏まえて説明しましょう。

入射波が連続的な波長をもつということは\(\,k=\dfrac{2\pi}{\lambda}\,\)より連続的な波数を持つということですね。

そしてエバルト球殻では,波数は半径に対応しました。

そのためエバルト球殻の半径が連続的に変化していきます。

波数が\(\,k_{\mathrm{min}}\sim k_{\mathrm{max}}\,\)の間の値を連続的にとるとすると,

このときのエバルト球殻の集まりは次の図のように半径\(\,k_{\mathrm{min}},\,k_{\mathrm{max}}\,\)の二つのエバルト球殻の間の領域(薄いで示したところ)になりますね。

そのため波長が連続的な入射波の場合,この領域内に含まれる逆格子点が回折現象を引き起こします。

このように連続的な波長に変えることで,回折現象を引き起こす逆格子点をたくさん捉えるのがラウエ法になります。

まとめ

今回の記事ではエバルト球殻を解説いたしました。

エバルト球殻がどのような気持ちで定義されたか,ラウエ法はどのようなものなのかを学ぶことはできたでしょうか?

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) 宇野良清, 津屋昇, 新関駒二郎, 森田章, 山下次郎 訳. “キッテル固体物理学入門  ハードカバー版”.第8版.丸善出版.2005出版.687p.

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