【解析学】実数列の極限とは? つまづきやすい定義をイメージを中心に解説

2024.05/02

こんにちは!半沢です!

今回の記事では解析学における実数列の極限について解説したいと思います。

実数列の極限は\(\,\,\varepsilon\text{-}N\,\,\)論法を用いて定義されるため,戸惑ってしまう方が多いと思います。

そこで実数列の極限について,厳密な定義と同時にそのイメージについても解説していきたいと思います。

数学科の方は位相空間論で,もっと抽象的に極限が定義されるので,実数列でイメージをしっかり押さえてしまいましょう。

続編として実数列の極限の基本的性質の記事もあるので、必要に応じて読んでください。

実数列の極限

導入

極限のイメージを持つために,実数について\(\,a=\alpha\,\)ということを改めて考えてみましょう。

\(a=\alpha\,\)は「近さ」の観点から以下のように捉えなおすことができます。

次の二条件は同値である。

\([1]\quad a=\alpha\)

\([2]\quad\)任意の正の実数\(\,\varepsilon\,\)に対して\(|a-\alpha|\lt \varepsilon\)が成り立つ。

いきなり\(\varepsilon\)が出てきて,戸惑う方もいらっしゃると思いますが,
条件\([2]\)は「\(a\)と\(\alpha\)は限りなく近い」ということを表しています。

このことをイメージを通して理解していきましょう。

条件\([2]\)を日常生活に置き換えて考えましょう。
\(a\)さんと\(\varepsilon\)さんの二人が会話をしています。

\(a\)さん:「私の家と\(\alpha\)さんの家は”限りなく近い”んだ。」

\(\varepsilon\)さん:「本当?じゃあ\(a\)さんの家と\(\alpha\)さんの家は\(100\,\mathrm{m}\)以内にあるんだろうね?」

\(a\)さん:「もちろん。」

\(\varepsilon\)さん:「じゃあ,\(1\,\mathrm{m}\)以内にもあるんだろうね?」

\(a\)さん:「あるよ。」

\(\varepsilon\)さん:「さすがに\(0.0000001\,\mathrm{m}\)以内にはないでしょ。」

\(a\)さん:「いや,あるよ。」

\(\varepsilon\)さん:「まじか。」

これを数学的に言い直すと

\(\varepsilon\)さん:「本当?じゃあ\(a\)さんの家と\(\alpha\)さんの家は\(100\,\mathrm{m}\)以内にあるんだろうね?」

\(a\)さん:「もちろん。」

の部分は\(|a-\alpha|\lt 100\)を表し,

\(\varepsilon\)さん:「じゃあ,\(1\,\mathrm{m}\)以内にもあるんだろうね?」

\(a\)さん:「あるよ。」

の部分は\(|a-\alpha|\lt 1\)を表し

\(\varepsilon\)さん:「さすがに\(0.0000001\,\mathrm{m}\)以内にはないでしょ。」

\(a\)さん:「いや,あるよ。」

の部分は\(|a-\alpha|\lt 0.0000001\)ということを表します。

このように\(\,\varepsilon\,\)の値でテストしていき,どんな値よりも「近い」と言えることが
条件\([2]\)の「限りなく近い」のイメージです。

ここまでは\(a\)が定数であるときの話であるという点も押さえておきましょう。

結局,条件\([1],[2]\)の同値性は以下のように解釈できます。

静止した数\(a\)が限りなく\(\alpha\)に近い」ことと「\(a=\alpha\)」は同等。

ちなみに条件\([1],[2]\)の同値性の証明は下のようになります。

[証明]\(\quad\)\([1]\Rightarrow[2]\)について
\(a=\alpha\Rightarrow|a-\alpha|=0\)であるため明らかである。

よって逆の\([2]\Rightarrow[1]\)を示す。

背理法により示そう。そこで\(a\not=\alpha\)とする。

正の実数として\(|a-\alpha|\gt 0\)を取れるので,\([2]\)において\(\varepsilon=|a-\alpha|\)とおくと
\(|a-\alpha|\lt |a-\alpha|\)となり明らかに矛盾する。

したがって題意は示された。\(\quad\square\)

収束

導入でのイメージをもとに収束の定義を捉えましょう。

定義

実数列\(\{a_n\}\)がある定数\(\alpha\)に収束するとは

任意の正の実数\(\varepsilon\)に対し,ある自然数\(N\)が存在して
\(n\geq N\Rightarrow |a_{n}-\alpha|\lt \varepsilon\)となることである。

このことを\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\)と書くことにし,
\(\alpha\)を数列\(\{a_n\}\)の極限値と呼ぶことにする。

前節の条件\([2]\)となんだか似ていますね。

特に異なる点は定数\(a\)(静止した数)から,\(n\)によって変化する数\(a_{n}\)(動く数)に変わった点です。

収束の定義は,この動きを捉えるため,前節のpointを下のように拡大解釈し,定義したものと言えるでしょう。

\(n\)を大きくしたとき「動く数\(a_n\)が限りなく\(\alpha\)に近づける」ことは,
ほぼ「\(a_n=\alpha\)」つまり\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\)と同等と定義して良いだろう。

さらに分かりやすいように,\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\)を再び会話形式で考えみましょう。

\(a_n\)さん:「私は\(\alpha\)さんの家に”限りなく近づく”ことができるんだ。」

\(\varepsilon\)さん:「本当?じゃあ\(\alpha\)さんの家から\(100\,\mathrm{m}\)圏内に入れるんだろうね?」

\(a_n\)さん:「もちろん。」

\(a_n\)さん:(実際に歩いて\(100\,\mathrm{m}\)圏内に入る)

\(a_n\)さん:「どうだ。」

\(\varepsilon\)さん:「じゃあ,今度は\(1\,\mathrm{m}\)圏内にも入れるんだろうね?」

\(a_n\)さん:「できるさ。」

\(a_n\)さん:(実際に歩いて\(1\,\mathrm{m}\)圏内に入る)

\(a_n\)さん:「ほらね。」

\(\varepsilon\)さん:「さすがに\(0.0000001\,\mathrm{m}\)圏内には入れないでしょ。」

\(a_n\)さん:「いや,入れるよ。」

\(a_n\)さん:(実際に歩いて\(0.0000001\,\mathrm{m}\)圏内に入る)

\(a_n\)さん:「参ったか。」

\(\varepsilon\)さん:「まじか。」

前節の会話と比べて「\(a_n\)さん:(実際に歩いて\(100\,\mathrm{m}\)圏内に入る)」のように
\(a_n\)さんが動くことによって限りなく近づくことが実現されました。

このことを数学的な言葉で表せば「任意の\(\varepsilon\)に対してある自然数\(N\)を取ってくる(\(N\)が存在する)」ことに対応します。

つまり新たに出てきた\(N\)は,数列\(a_n\)の「動き」を厳密に捉えるためのものだったのです。

また\(N\)は\(\varepsilon\)に応じて決まることを押さえておきましょう
(\(\varepsilon\text{-}N\)論法の誤解の多くはここを理解していないことによると思います)。

前節の条件\([2]\)とあと一つ異なる点として\(n\geq N\)があります。

これは時刻\(N\)以降では\(a_n\)さんの気が変わって,
\(\alpha\)さんの家から極端に遠ざかることはないと保証するためにあるイメージです。

今\(a_n\)さんは\(\alpha\)さんの家に近づくことを考えているのに,急に離れてしまったら不自然ということです。

このように実数列の収束は捉えられるわけですね。

発散

発散の定義もイメージで捉えていきましょう。

定義(発散)

実数列\(\{a_n\}\)が発散するとは
\(\{a_n\}\)が収束しないことである。

※定義から分かるように\(a_n=(-1)^n\)のような振動する数列も「発散する」と言います。

定義(\(+\infty\)に発散)

実数列\(\{a_n\}\)が\(+\infty\)に発散するとは

任意の実数\(K\)に対し,ある自然数\(N\)が存在して
\(n\geq N\Rightarrow a_{n}\gt K\)となることである。

このことを\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=+\infty\)と書くことにする。

定義(\(-\infty\)に発散)

実数列\(\{a_n\}\)が\(-\infty\)に発散するとは

任意の実数\(K\)に対し,ある自然数\(N\)が存在して
\(n\geq N\Rightarrow a_{n}\lt K\)となることである。

このことを\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=-\infty\)と書くことにする。

\(+\infty\)の場合についてのイメージを掴めれば,\(-\infty\)のイメージも掴めるので
ここからは\(+\infty\)に限ってお話しします。

\(+\infty\)への発散のイメージは下のようになります。

\(n\)を大きくしたとき「動く数\(a_n\)を限りなく大きくできる」ことを,
\(+\infty\)に発散すると表している。

発散も会話によるイメージで確認しておきましょう。登場人物は\(a_n\)さんと\(K\)さんです。

\(a_n\)さん:「私の資産は”限りなく”大きくできるんだ。」

\(K\)さん:「本当?じゃあ資産を\(100\,\)万より大きくできるんだね?」

\(a_n\)さん:「もちろん。」

\(a_n\)さん:(投資などをして資産を\(100\,\)万より大きくする)

\(a_n\)さん:「どうだ。」

\(K\)さん:「じゃあ,今度は\(1000\,\)兆円よりも大きくできるんだね?」

\(a_n\)さん:「できるさ。」

\(a_n\)さん:(投資などをして資産を\(1000\,\)兆円より大きくする)

\(a_n\)さん:「ほらね。」

\(\varepsilon\)さん:「さすがに\(1\,\)無量大数(※\(10^{68}\))円より大きくはできないでしょ。」

\(a_n\)さん:「いや,できるよ。」

\(a_n\)さん:(投資などをして資産を\(1\,\)無量大数円より大きくする)

\(a_n\)さん:「参ったか。」

\(\varepsilon\)さん:「まじか。」

収束のときと同様に\(N\)は\(K\)に応じて決まることを押さえておきましょう。

まとめ

今回の記事では実数列の極限を解説いたしました。

定義とそのイメージを掴むことはできたでしょうか?

今回,解説していない極限の基本的な命題についての記事もあるので,そちらも読んでいただけると嬉しいです。

そこでの証明で実際の\(\varepsilon\text{-}N\)論法を見て,身に着けることをおススメします。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) 吹田信之,新保経彦.”理工系の微分積分学”.初版.学術図書出版社.1987出版.p.5-7
  • \([2]\) 加藤文元.”数研講座シリーズ 大学教養 微分積分”.初版.数研出版.2019出版.p.21-30

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