【線形代数学】基底変換行列とは? 線形代数学における重要概念をイメージを踏まえつつ解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では線形代数学における基底変換行列(change-of-basis matrix)について解説したいと思います。
基底変換行列は代数学ではもちろん,多様体などの幾何学でも用いる重要な概念です。
この記事では基底変換行列の意味をイメージとして腑に落ちるように解説を頑張りました。
この記事だけでは理解できなかった方には“3Blue1BrownJapan”さんの動画をおススメします。
それでは解説に参りましょう。
基底変換行列(change-of-basis matrix)
導入
ベクトル空間には基底が存在しますが,その基底の取り方は様々です。
例えば\(\mathbb{R}^{2}\)において\(\,\langle\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \end{array}\right),\,\,\left(\begin{array}{c}0 \\ 1 \end{array}\right)\rangle\)はもちろん一つの基底になりますが,
別の基底として\(\,\langle\left(\begin{array}{c}1 \\ 2 \end{array}\right),\,\,\left(\begin{array}{c}3 \\ 4 \end{array}\right)\rangle\)も取ることができます。
上のように\(K\)上の\(n\)次元ベクトル空間\(V\)において,
異なる\(2\)つの基底\(E=\langle \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle,F=\langle \mathbf{f}_1,\mathbf{f}_2,\cdots,\mathbf{f}_n\rangle\)が存在する状況を考えましょう。
イメージとして分かりやすいように
\(E\)を私たちにとってなじみのある基底,\(F\)をそうでない基底と思うと良いです。
このとき基底\(E\)を基底\(F\)に変換する操作
\(\mathbf{e}_1\mapsto\mathbf{f}_1,\,\mathbf{e}_2\mapsto\mathbf{f}_2,\cdots,\mathbf{e}_n\mapsto\mathbf{f}_n\)を考えます。
これを数学的に厳密な言葉で言い換えれば
線形写像\(T:V\to V\)で
\(T(\mathbf{e}_1)=\mathbf{f}_1,T(\mathbf{e}_2)=\mathbf{f}_2,\cdots,T(\mathbf{e}_n)=\mathbf{f}_n\)と移すものを考えるということです。
ここで第三基礎定理を思い出しましょう。
第三基礎定理では\(V\cong K^{n}\)であったことから,
この\(V\)上の線形写像\(T\)を\(K^{n}\)上の線形写像と同一視することができます。
ここも数学的に言い直すと,基底\(E\)によって定まる同型\(\varphi_E:V\to K^{n}\)を用いれば,
\(K^{n}\)上の線形写像\(\varphi_E\circ T \circ\varphi_{E}^{-1}\)が取れるということです。
※\(\varphi_E\)の具体的な表示は第三基礎定理の記事で紹介しているように
基底\(E\)によって\(\mathbf{v}\in V\)が
\(\mathbf{v}=v_1\mathbf{e}_1+v_2\mathbf{e}_2+\cdots+v_n\mathbf{e}_n\)と表示できるとき
\(\varphi(\mathbf{v})=\left(\begin{array}{c}v_{1} \\ v_{2} \\ \vdots \\ v_{n}\end{array}\right)\)と移すものです。
さらにここで第一基礎定理を用いると
\(T_P=\varphi_E\circ T \circ\varphi_{E}^{-1}\)となる\(n\)次正方行列\(P\)が存在することが分かります。
この行列\(P\)のことを基底変換\(E\to F\)の行列と呼びます。
基底\(E\)によって定まる同型\(\varphi_E\)は言わば,「視点\(E\)に立って\(V\)を見る」とイメージできます。
このイメージに沿えば下のように言えるでしょう。
変換行列\(P\)は
「視点\(E\)から,基底を取り換える操作\(T\)を見たもの」
次節でこの流れをまとめましょう。
定義
前節で述べたことをまとめて,基底変換\(E\to F\)の行列の定義を確認しましょう。
定義\([1]\)
下の可換図式を満たすような行列\(P\)を基底変換\(E\to F\)の行列と呼ぶ。
また証明は省きますが,次元の議論から線形写像\(T\)は同型であることが分かります。
そのため基底変換行列\(P\)は必ず正則行列になることも押さえておきましょう。
さらに逆写像\(T^{-1}\)を考えましょう。
この\(T^{-1}\)は\(\varphi_F=\varphi_E\circ T^{-1}\)を満たすことが簡単に分かります。
つまり\(\varphi_F\)は先ほどの可換図式の右斜め下方向の矢印に対応します。
このことを用いると定義\([1]\)を次のように書き換えることができます。
定義\([2]\)
下の可換図式を満たすような行列\(P\)を基底変換\(E\to F\)の行列と呼ぶ。
定義\([2]\)は可換図式がスッキリするため,このサイトではこちらの定義を用いることが多いです。
しかし\(T_P=\varphi_{E}\circ\varphi_{F}^{-1}\)となるため
\(E\to F\)のイメージを持ちづらいのが難点です。
※もしかしたら分かりやすいイメージがあるのかもしれませんが,私の調べた範囲では腑に落ちるものがありませんでした。定義\([2]\)の良いイメージがある方はぜひ教えてください。
参考図書\([2]\)ではこちらの定義が採用されています。
またもう一つ定義\([3]\)を付け加えることができるのですが,それは次節:求め方で確認していきましょう。
求め方
では基底変換\(E\to F\)の行列\(P\)の具体的な表示を求めていきましょう。
\(P\)は結局第一基礎定理により定まったので,そこで解説した方法に従えば良いですね。
下のように\(P\)を列ベクトル
\(p_i=\left(\begin{array}{c}p_{1i} \\ p_{2i} \\ \vdots \\ p_{ni}\end{array}\right)\quad(i=1,\cdots,n)\)
で区切ったとしましょう。
\(P= \left(\begin{array}{cccc}p_{1} & p_{2} & \cdots & p_{n}\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}p_{11} & p_{12} & \ldots & p_{1n} \\ p_{21} & p_{22} & \ldots & p_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ p_{n1} & p_{n2} & \ldots & p_{nn}\end{array}\right)\)
このとき\(\,\,p_i=\varphi_E \circ T\circ\varphi_E^{-1}(e_i)\,\,\)が成り立つのでした。
※\(e_i\)は\(e_1=\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0\end{array}\right),\,\,e_2=\left(\begin{array}{c}0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0\end{array}\right),\,\,\cdots\,\,,e_n=\left(\begin{array}{c}0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1\end{array}\right)\)のことで,
基底\(E=\langle \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\)とは異なります。
記号が煩わしくてすいません。
この式\(\,\,p_i=\varphi_E \circ T\circ\varphi_E^{-1}(e_i)\,\,\)を下のように変形していきましょう。
つまり\(P\)の成分は\(\mathbf{f}_1,\mathbf{f}_2,\cdots,\mathbf{f}_n\)を基底\(E\)で表したときの成分によって求めることができます。
先ほど得られた関係を「形式的に」行列を用いて表示すると
\((\mathbf{f}_1\,\,\mathbf{f}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{f}_n)=(\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)P\)
と表すことができます。
つまり定義\([3]\)が以下のように得られます。
定義\([3]\)
\((\mathbf{f}_1\,\,\mathbf{f}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{f}_n)=(\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)P\)を満たすような
\(n\)次正方行列\(P\)を基底変換\(E\to F\)の行列と呼ぶ。
また第二基礎定理を用いて,写像の合成は行列の積に対応することを用いれば,
以下のことが可換図式から簡単に証明できます(要望があれば証明を書きます)。
- 基底変換\(E\to F\)の行列が\(P\)\(\,\,\Rightarrow\,\,\)基底変換\(F\to E\)の行列は\(P^{-1}\)
- 基底変換\(E\to F,F\to G\)の行列が\(P,Q\)\(\,\,\Rightarrow\,\,\)基底変換\(E\to G\)の行列は\(PQ\)
定義\([3]\)のように基底変換行列は右からかけるので,基底変換行列を合成するときの順序には注意しましょう。
応用
前節:求め方に従って基底変換行列を求めると,
基底の成分間の等式を得ることができます。
例えば基底\(E,F\)について\(\mathbf{v}\in V\)が
と表示できていたとしましょう。
このとき定義\([2]\)の可換図式(下の図)から
\(\varphi_E(\mathbf{v})=T_P\circ\varphi_F(\mathbf{v})\)より
\(\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)=P\left(\begin{array}{c}y_{1} \\ y_{2} \\ \vdots \\ y_{n}\end{array}\right)\)が成り立ちます。
また両辺に左から\(P^{-1}\)をかければ
\(\left(\begin{array}{c}y_{1} \\ y_{2} \\ \vdots \\ y_{n}\end{array}\right)=P^{-1}\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)\)が成り立ちます。
また式的にも説明を行うこともできます。
の式を行列を用いて形式的に表現すると
\((\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)=(\mathbf{f}_1\,\,\mathbf{f}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{f}_n)\left(\begin{array}{c}y_{1} \\ y_{2} \\ \vdots \\ y_{n}\end{array}\right)\)
となり,これに定義\([3]\)の\((\mathbf{f}_1\,\,\mathbf{f}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{f}_n)=(\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)P\)という式を用いれば
\((\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)=(\mathbf{e}_1\,\,\mathbf{e}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e}_n)P\left(\begin{array}{c}y_{1} \\ y_{2} \\ \vdots \\ y_{n}\end{array}\right)\)
となります。
よって両辺を比較して
\(\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)=P\left(\begin{array}{c}y_{1} \\ y_{2} \\ \vdots \\ y_{n}\end{array}\right)\)
が得られます。
結果として前節で述べたように
基底においては基底\(E\)に\(P\)をかけることで基底\(F\)が得られるのに対し,
成分においては\(E\)の成分に\(P^{-1}\)をかけることで\(F\)の成分を得られるという
逆の対応になっていることに注意してください。
この逆の対応はイメージで言えば下の図のようになります。
※個人的には完璧に腑に落ちているわけではないので,理解できない方がいたら申し訳ないです。もっと良いイメージがある方はご提案していただけると嬉しいです。
相対運動のイメージです。
まとめ
今回の記事では基底変換行列(change-of-basis matrix)について解説して参りました。
冒頭の繰り返しにもなりますが,線形代数学では表現行列の話,多様体においても接ベクトルの取り替えなどで用いる重要な概念です。
個人的にうまく説明できたのかあまり自信がないので,理解できなかった方は“3Blue1BrownJapan”さんの動画の視聴をおススメします。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考図書
- \([1]\) 加藤文元.”数研講座シリーズ 大学教養 線形代数”.初版.数研出版.2010出版.p.229-230
- \([2]\) 斎藤正彦.”線形代数入門 基礎数学1″.初版.東京大学出版.1966出版.p.105-107
- \([3]\) 3Blue1BrownJapan.”Chapter13 基底変換 | 線形代数のエッセンス”.2024-04-04参照.https://www.youtube.com/watch?v=PD38hkuRUIs