【線形代数学】線形代数学の第三基礎定理とは? 線形代数学の応用の広さを中心に解説

2024.03/09

こんにちは!半沢です!

今回の記事では線形代数学の第三基礎定理(the third foundational theorem of linear algebra)について解説したいと思います。

前回前々回に引き続き,この定理の名前は著者の私が勝手に名付けたものですので,注意してください。

最後の第三基礎定理は線形代数学の扱える範囲を広げてくれるものとなります。

三つの基礎定理をマスターすることは,線形代数学の本質的理解につながるので読んでいただけると嬉しいです。

それでは解説していきます。

線形代数学の第三基礎定理(the third foundational theorem of linear algebra)

主張

線形代数学の第三基礎定理

体\(K\)上の\(n\)次元ベクトル空間\(V\not=\{\mathbf{0}\}\)と\(n\)項列ベクトルの空間\(K^{n}\)は同型である。

つまり\(V\cong K^{n}\)である。

この第三基礎定理は
有限次元ベクトル空間は列ベクトル空間と”同じ”ことを表しています。

第一,第二基礎定理の適用範囲はあくまで,列ベクトル空間でした。

しかしこの第三基礎定理により,その適用範囲を
列ベクトル空間から\(n\)次元ベクトル空間へと拡張することができるのです。

※その具体的な拡張方法は表現行列の記事を書く予定なので,それをお待ちください。

つまり行列は列ベクトル空間のみならず,
ベクトル空間の間の「線形」写像を表す「代数」に進化できるというわけです。

行列はベクトル空間上の「線形」写像を表す「代数」という,
かなり適用範囲の広いものである。

※体\(K\),ベクトル空間,同型などをしっかり解説しようとするとそれだけで一記事書けてしまうので,既知のものとしています。

一応知らない方のために

体\(K\to\,\,\,\)具体例として実数空間\(\mathbb{R}\)や複素数空間\(\mathbb{C}\)など。

体\(K\)上のベクトル空間\(V\to\,\,\,\)\(n\)項列ベクトルの空間\(K^{n}\)と似たような操作(足し算やスカラー倍など)が可能な空間。

同型\(\to\,\,\,\)本質的に二つのものが”同じ”であること。

と軽くイメージを説明しておきます。

詳しく知りたい方は参考図書[1],[2]などを参照しましょう。

証明

第三基礎定理もその仕組みを理解することが大切なので,証明を確認していきましょう。

それでは証明です。

\(V\)は\(n\)次元なので,\(V\)の基底\(E=\langle \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\)を取ってくることができます。

この基底により,任意の\(\mathbf{x}\in V\)について

\(\mathbf{x}=x_1\mathbf{e}_1+x_2\mathbf{e}_2+\cdots+x_n\mathbf{e}_n\)

を満たす\(K\)の元の組\(x_1,x_2,\cdots,x_n\)が一意的に決まります。

この性質を利用して,写像\(\varphi_E:V\to K^{n}\)を

\(\varphi_E(\mathbf{x})=\left(\begin{array}{c}x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n}\end{array}\right)\)

と定めます。

この写像が同型となることは簡単に確かめることができるので,これにて証明終了です。

で示した同型\(\varphi_E\)は\(V\)の基底の取り方によって異なるので,
基底\(E\)により定まる同型」と呼びます。

基底の取り替えや表現行列において用いるので,絶対に覚えておきましょう。

最後に余談ですがこの証明から,\(V\)の基底から\(K^{n}\)への同型を構成できることが分かります。

逆にベクトル空間\(V\)から\(K^{n}\)の同型から\(V\)の基底を構成することも証明できます(補遺参照)。

そのため基底と\(K^{n}\)への同型には対応があるというイメージも持っておくと良いでしょう。

応用

第三基礎定理の応用の範囲はかなり広いです。

なぜならベクトル空間は必ず基底を持つ(参考図書[2])ので,
それが有限次元であればこの第三基礎定理を適用できてしまうからです。

第一基礎定理の記事でも軽く触れましたが,ここから基底変換や表現行列の話が展開されて行きます。

これらの概念は物理学で言えば量子力学,数学で言えば表現論などの代数学や,多様体などの幾何学の分野でも使用します。

まとめ

今回の記事では線形代数学の第三基礎定理を解説いたしました。

線形代数学の応用の広大さを理解していただけたでしょうか。

繰り返しになりますが,これまでに解説した基礎定理をもとに,
基底の取り替えや表現行列の話が展開されるので,絶対に押さえておきましょう。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

最後に補遺参考図書も載せてあるので,気になる方は覗いてみてください。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

補遺

ここでは証明で触れた以下の命題の証明を行います。

体\(K\)上の\(n\)次元ベクトル空間\(V\)から\(K^{n}\)への同型\(\varphi:V\to K^{n}\)が存在するとき,
\(\langle\varphi^{-1}(\mathbf{e}_1),\varphi^{-1}(\mathbf{e}_2),\cdots,\varphi^{-1}(\mathbf{e}_n)\rangle\)は\(V\)の基底になる。

※ただし\(\mathbf{e}_1,\cdots,\mathbf{e}_n\)は\(K^{n}\)の\(n\)項単位ベクトルとしています。

[証明] \(\langle\varphi^{-1}(\mathbf{e}_1),\varphi^{-1}(\mathbf{e}_2),\cdots,\varphi^{-1}(\mathbf{e}_n)\rangle\)が\(V\)の基底であることを示すには以下の二点を確認すればよい。

\([1]\)線形独立性
\([2]\)\(V\)の任意の元\(\mathbf{x}\)は,\(\varphi^{-1}(\mathbf{e}_1),\varphi^{-1}(\mathbf{e}_2),\cdots,\varphi^{-1}(\mathbf{e}_n)\)の線形結合として表せること

\([1]\)について

\(c_1,\cdots,c_n\in K\)について,
\(\varphi^{-1}\)の線形性,単射性,\(\langle\mathbf{e}_1,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\)は\(K^{n}\)の基底であることを用いると

よって\([1]\)は示された。

\([2]\)について

\(\langle\mathbf{e}_1,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\)は\(K^{n}\)の基底であるので,ある\(c_1,\cdots,c_n \in K^{n}\)を用いて
\(\varphi(\mathbf{x})=c_1\mathbf{e}_1+c_2\mathbf{e}_2+\cdots+c_n\mathbf{e}_n\)と書ける。

よって\(\varphi^{-1}\)の線形性により

故に\([2]\)は示された。

したがって題意は示された。

参考図書

  • [1] 斎藤正彦.”線形代数入門 基礎数学1″.初版.東京大学出版.1966出版.p.96-105
  • [2] 雪江明彦.”代数学2 環と体とガロア理論”.初版.日本評論社.2010出版.p.92-109

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