【群論】一次表現とは? 一次表現に関する周辺定理やその求め方まで解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では有限群の表現論における一次表現(linear representation)について解説したいと思います。
表現の構成要素である既約表現を求めるときは,
まず最も簡単な一次既約表現から求めるのが鉄板です。
そのため,この記事を通してその周辺定理や一次既約表現の求め方をマスターしてしまいましょう!
ぜひ読んでいってください。
※この記事では表現は,群は有限群で複素数体\(\mathbb{C}\)上の有限次元表現とします。
一次表現(linear representation)
定義
一次表現(linear representation)の定義を確認しておきましょう。
定義
有限群\(G\)の表現で次数が\(1\)のものを一次表現と呼ぶ。
定義は名前のまんまですね。
※表現論の知識を仮定してますので,「表現」や「次数」が分からない方は参考図書で学ぶとよいでしょう。
定理
この節では一次表現の重要な周辺定理を紹介していきたいと思います。
定理\([1]\)
一次表現は群から\(\mathbb{C}^{\times}\)への準同型と同一視できる。
定理\([2]\)
一次表現は既約表現である。
定理\([3]\)
\(G\)を有限群とすると,
\(G\)が可換群\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)既約表現は全て一次表現。
定理\([4]\)
\(G\)が有限可換群のとき
\(G\)の互いに同型でない既約表現の数は\(|G|\)に等しい。
定理\([2]\)より既約一次表現は以降,一次表現と呼ぶようにします。
次の2つの定理は既約表現を求める際に最も重要な定理です。
定理\([5]\)
\(G\)の一次表現は可換化\(G^{ab}=G/D(G)\)の一次表現と同一視でき,その個数は\(|G^{ab}|\)である。
定理\([6]\)
有限群\(G\)の任意の既約表現と任意の一次表現のテンソル積は既約表現である。
証明が簡単な定理\([1],[2]\)以外は,こちらに証明を記述しておりますので,ご確認ください。
定理のイメージ
この節では定理\([1],[2],[4]\)のイメージを確認していきましょう。
※定理\([1],[2],[4]\)以外のイメージは私が証明以上のイメージを持ち合わせていないため書いておりません。もし腑に落ちるイメージを持っている方がいらっしゃったら,ぜひ教えて下さい。
まずは定理\([1]\)ですが,これは単に\(GL(1,\mathbb{C})=\mathbb{C}^{\times}\)とみなせるからですね。
※\(GL(1,\mathbb{C})\)は\(\mathbb{C}\)の元を成分とする,\(1\)次正方正則行列の乗法群を指します。
また定理\([2]\)はもし既約でないとすると,自明でない不変部分空間を持つ必要がありますが,
\(1\)次元ではそのような空間が入るスペースがないからと言えます。
最後に定理\([4]\)です。
これは交換子群の記事で解説したように
\(G^{ab}\)が可換剰余群のなかで最も基本的なものになっているからです。
そもそも,一次表現\(\rho\)について剰余群\(G/\mathrm{Ker}\rho\)は可換になっています。
なぜなら定理\([1]\)でみたように,一次表現は可換群\(C^{\times}\)への準同型であり,準同型定理より\(G/\mathrm{Ker}\rho\cong (C^{\times}の部分群)\)となるからです。
後は剰余群と元の群との表現の対応により定理\([4]\)が言えるというわけです。
例題
まずはこちらの問題を考えてみましょう。
例題\([1]\)
置換群\(\mathfrak{S}_{n}\)の一次表現をすべて求めよ。
\(n=1\)のときは明らかに恒等表現のみですので,\(n\geq 2\)とします。
定理\([5]\)を用いるために,まずは\(D(\mathfrak{S}_n)\)を求めましょう。
交換子群の記事で解説したように,\(D(\mathfrak{S}_n)=\mathfrak{A}_n\)です。
準同型\(\,\mathrm{sgn}\,\)について\(\mathfrak{A}_n=\mathrm{Ker}(\mathrm{sgn})\)であったので,準同型定理から
\(\mathfrak{S}_{n}^{ab}\cong \{\pm 1\}\)です。
よって定理\([5]\)より\(\mathfrak{S}_n\)の一次表現は\(\{\pm1\}\)の一次表現と同一視でき,
その数は位数の\(2\)となります。
あとはこの一次表現の具体的な形を求めればよいですね。
具体的な一次表現の求め方は実は定式化されています。
まず\(\{\pm 1\}\)は巡回群なのでその生成元である\(-1\)について考えましょう。
生成元\(\,-1\,\)の\(\mathbb{C}^{\times}\)への行先を決めてしまえば,表現は決まってしまいます。
※定理\([1]\)により一次表現は\(\mathbb{C}^{\times}\)の準同型と同一視できることに注意しましょう。
\(-1\)の位数は\(2\)なので,\(1\)の\(2\)乗根\(1,-1\)を取って来ましょう。
これらに対し,\(-1\mapsto {\color{#f2541d}1}\)とする表現と,\(-1\mapsto {\color{#1e7bba}-1}\)とする表現が得られ,
これらが求めたい表現となります。
この一次表現の求め方は定理\([4]\)の証明の中で議論しておりますので,
一般論を詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。
概要を話せば有限アーベル群の基本定理により巡回群に分解した後,それらの生成元に\(1\)のべき根を対応させるというやり方になっております。
あとは\(\mathfrak{S}_{n}^{ab}\)上での一次表現を元の\(\mathfrak{S}_{n}\)の一次表現に対応させ,
\(\mathfrak{S}_{n}\)の全ての一次表現を求めましょう。
実は「\(-1\mapsto {\color{#f2541d}1}\)となる表現」は恒等表現\(1_{\mathfrak{S}_n}\),「\(-1\mapsto {\color{#1e7bba}-1}\)とする表現」は\(\,\mathrm{sgn}\,\)に対応します。
この\(\,\mathrm{sgn}\,\)は交代表現と呼ばれ,
\(\mathfrak{S}_{n}\,(n\geq 2)\)の一次表現は恒等表現と交代表現に限ることが分かりました。
このように一次表現は定式的に求めることができるのです。
(厳密に言えば交換子群を求めるのが簡単であるときの話ですが・・・)
まとめ
参考図書
- 近藤武. “群論 岩波基礎数学選書” .初版.岩波書店.1991出版.p254-256,278
- I.Martin Issacs. “Character theory of finite groups”.Dover Publications.1994出版.p25
証明
最後に定理\([1],[2]\)以外の下の定理の証明を行っていきたいと思います。
定理\([1]\)
一次表現は群から\(\mathbb{C}^{\times}\)への準同型と同一視できる。
定理\([2]\)
一次表現は既約表現である。
定理\([3]\)
\(G\)を有限群とすると,
\(G\)が可換群\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)既約表現は全て一次表現。
定理\([4]\)
\(G\)が有限可換群のとき
\(G\)の互いに同型でない既約表現の数は\(|G|\)に等しい。
定理\([5]\)
\(G\)の一次表現は可換化\(G^{ab}=G/D(G)\)の一次表現と同一視でき,その個数は\(|G^{ab}|\)である。
定理\([6]\)
有限群\(G\)の任意の既約表現と任意の一次表現のテンソル積は既約表現である。
※指標論の結果を用いて証明してるため,少し難しいかもしれません。\(\Rightarrow\)の指標論を用いない証明は参考文献[1]に載っています。\(\Leftarrow\)については知らないため,どなたか教えていただけると幸いです。
\(g\in G\)の共役類を\(C(g)\)で表すことにする。
まず\(\Rightarrow\)を示すために\(G\)を可換群とするとする。
\(G\)が可換群\(\,\,\Leftrightarrow\,\,C(g)=\{g\}\quad(\forall g \in G)\)であり,
\(G\)の既約指標の数は\(G\)の共役類の数に等しい。
よって既約指標の数は\(n=|G|\)個となる。
ここで正則指標によって得られる等式
\(n=\chi_{1}(1_{G})^{2}+\chi_{2}(1_{G})^{2}+\cdots+\chi_{n}(1_{G})^{2}\)
が成り立つ。
各\(\chi_{i}(1_G)\)は自然数なのでこの等式が成り立つには,
各\(i\)について\(\chi_{i}(1_G)=1\)となる必要がある。
これは既約表現はすべて一次表現であることを表すので,
\(\Rightarrow\)は示された。
続いて逆の\(\Leftarrow\)について示すために,既約表現は全て一次であるとする。
既約表現の数を\(m\)個とすると,先ほどと同様の等式により
\(|G|=\chi_{1}(1_{G})^{2}+\chi_{2}(1_{G})^{2}+\cdots+\chi_{m}(1_{G})^{2}\)
仮定より,\(\chi_{i}(1)=1\)であるので\(|G|=m\)となる必要がある。
\(G\)の既約指標の数は\(G\)の共役類の数に等しいので,共役類の個数は\(|G|\)となり,
このためには\(C(g)=\{g\}\quad(\forall g \in G)\)となる必要がある。
よって冒頭で示した必要十分条件より,\(G\)は可換群となる。
したがって\(\Leftarrow\)も示され,題意は示された。
定理[4]について
※定理\([3]\)の証明と同様に指標論の結果などを使えば簡単に証明できますが,
具体的な表現を記述するために指標を用いずに証明します。
\(G\)は有限可換群なので,有限アーベル群の基本定理より,
\(G\cong G_{1}\times\cdots\times G_{t}\)となる,
有限巡回群\(G_{i}=\langle g_i \rangle \quad(1\leq i \leq t)\)が存在する。
\(g_{i}\)の位数を\(n_i\),\(\omega_i\)を\(1\)の原始\(n_i\)乗根とする。
整数\(l_1,\cdots,l_t\)に対して
\(\rho_{l_1\cdots l_t}(g_i)=\omega_{i}^{l_i}\quad(1 \leq i\leq t)\)
と生成元の値を決めることにより
\(G\)の\(\mathbb{C}\)上の一次表現\(\rho_{l_1\cdots l_t}\)を定めることができる。
また明らかに
全ての\(1\leq i\leq t\)について\(l_i\equiv l_i’\quad(\mathrm{mod}\,\,n_i)\,\,\Leftrightarrow\,\,\rho_{l_1\cdots l_t}=\rho_{l_1’\cdots l_t’}\)
となる。
つまり整数\(l_1,\cdots,l_t\)の余りが同じものは同じ表現で,
余りが異なるものは同型でない表現ということである。
※一次表現では表現が異なると同型でないことは同値であることに注意しましょう。
故に整数\(l_1,\cdots,l_t\)の余りの種類は\(n_1 n_2\cdots n_t\)より,互いに同型でない一次表現が\(n_1 n_2\cdots n_t=|G|\)個得られた。
題意を示すには\(G\)の既約表現がこれらに限ることを示せばよい。
\(G\)の既約表現\(\,\rho\,\)が存在したとすると,定理\([3]\)よりそれは一次表現となる。
\(g_i\)の位数は\(n_i\)より,\(\rho(g_i)^{n_i}=1\)となるので,\(\rho(g_i)\)の値は\(1\)の原始\(n_i\)乗根を用いて書くことができる。
そのため結局,ある整数\(l_1,\cdots,l_t\)が存在して\(\rho=\rho_{l_1\cdots l_t}\)と書ける。
したがって題意は示された。
定理\([5]\)について
\(\rho\)を\(G\)の一次表現とする。
\(\rho\)は\(G\)から可換群\(\mathbb{C}^{\times}\)への準同型であるので,準同型定理より\(G/\mathrm{Ker}\rho\)は可換群となる。
よって交換子群の性質より\(\mathrm{Ker}\rho\supseteq D(G)\)となる。
故に一次表現は\(D(G)\)を核に含む\(G\)なので,剰余群\(G^{ab}=G/D(G)\)の一次表現に対応する。
逆に\(G^{ab}\)の一次表現が\(G\)の一次表現に対応することも明らかである。
これは\(G\)の一次表現は可換化\(G^{ab}\)の一次表現と同一視できることを表す。
また一次表現の個数については\(G^{ab}\)は可換群なので,定理\([4]\)より従う。
したがって題意は示された。
定理\([6]\)について
\(G\)の任意の既約表現\(\rho\)と任意の一次表現\(\phi\)に対して,その指標を\(\chi_{\rho},\chi_{\phi}\)とおく。
まず\(\rho\)の既約性から内積について\((\rho,\rho)=1\)である。
そして一次表現なので\(\chi_{\phi}=\phi\)であり,
\(\overline{\chi_{\phi}(g)}=\chi_{\phi}(g^{-1})=\phi(g)^{-1}\)であることも押さえておく。
すると2つの表現のテンソル積\(\,\rho\otimes\phi\,\)の指標\(\,\chi_{\rho}\chi_{\phi}\,\)の内積について
よって\((\chi_{\rho}\chi_{\phi},\chi_{\rho}\chi_{\phi})=1\)より,\(\rho\otimes\phi\)は既約であることが示され,題意は示された。