【線形代数学】表現行列とは? 何を表現しているのか?相似関係との関連も含めて解説

2024.04/08

こんにちは!半沢です!

今回の記事では線形代数学における表現行列(representation matrix)について解説したいと思います。

表現行列は,数学では表現論,物理学では量子力学にも関連する重要な概念です。

この記事では表現行列が何を表現しているのかと,表現行列に関連する相似関係についての解説を行いたいと思います。

量子力学における応用や,具体例については別の記事として書く予定なのでそちらをお待ちください。

それでは解説に参りましょう。

表現行列(representation matrix)

※線形代数学の基礎定理()をどしどし使うので,知識が不十分だと感じる方はそちらをまず読むことをおススメします。

導入

表現行列が定義される流れを確認していきましょう。

\(K\)上の\(n\)次元ベクトル空間\(V\)と\(m\)次元ベクトル空間\(V’\),
そして,それら上の線形写像\(T:V\to V’\)がある状況を考えます。

ベクトル空間には必ず基底が存在するので,
\(V\)の基底として\(E=\langle \mathbf{e}_1,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\),
\(V’\)の基底として\(E’=\langle \mathbf{e’}_1,\cdots,\mathbf{e’}_m\rangle\)
を取ってきたとします。

イメージとして\(V\)や\(V’\)は実数\(n\)項列ベクトルの集合\(R^{n}\)といったなじみ深いものではなく,
抽象的で掴みどころのないものと思った方がよいです。

例えば量子力学においては\(V,V’\)は(波動)関数の空間,
\(T\)は微分などを行う演算子に対応します。

この掴みどころのない線形写像\(T\)を,私たちにとってなじみ深い行列へと表現していきます。

まず第三基礎定理より
基底により定まる同型\(\varphi_E:V\to K^{n},\varphi_{E’}:V’\to K^{m}\)を取ってきましょう。

ここで上の図で\(K^{n},K^{m}\)間を結ぶ線形写像\(\varphi_{E’}\circ T\circ \varphi_{E}^{-1}\)に注目です。

これは第一基礎定理より\(T_A=\varphi_{E’}\circ T\circ \varphi_{E}^{-1}\)となる\((m,n)\)行列\(A\)が決定されます。

この行列\(A\)のことを基底\(E,E’\)に関する\(T\)の表現行列と呼びます。

つまり,まとめると下のようになります。

表現行列とは線形写像を行列で表現したもの。

次節:定義でこの流れをまとめましょう。

定義

前節で述べたことをまとめて表現行列の定義を確認しましょう。

定義\([1]\)
下の可換図式を満たすような行列\(A\)を基底\(E,E’\)に関する\(T\)の表現行列と呼ぶ。

定義から分かるように,
基底の取り方によって表現行列は異なるという点も理解しておきましょう。

この点は基底の違いで改めて触れます。

次節では表現行列の求め方を確認していきましょう。

求め方

それでは表現行列\(A\)の具体的な表示を求めていきましょう。

\(A\)は第一基礎定理により定まったので,そこで解説した方法に従えば良いですね。
基底変換行列のときと同様です。

下のように\(A\)を列ベクトル

\(a_i=\left(\begin{array}{c}a_{1i} \\ a_{2i} \\ \vdots \\ a_{mi}\end{array}\right)\quad(i=1,\cdots,n)\)

で区切ったとしましょう。

\(A= \left(\begin{array}{cccc}a_{1} & a_{2} & \cdots & a_{n}\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}\end{array}\right)\)

このとき\(\,\,a_i=\varphi_E’ \circ T\circ\varphi_E^{-1}(e_i)\,\,\)が成り立つのでした。

※\(e_i\)は\(e_1=\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0\end{array}\right),\,\,e_2=\left(\begin{array}{c}0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0\end{array}\right),\,\,\cdots\,\,,e_n=\left(\begin{array}{c}0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1\end{array}\right)\)のことで,
基底\(E=\langle \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n\rangle\)とは異なります。
記号が煩わしくてすいません。

\(\,\,a_i=\varphi_E’ \circ T\circ\varphi_E^{-1}(e_i)\,\,\)を以下のように変形してきます。

つまり\(A\)の成分は基底\(E\)を\(T\)で変換した\(T(\mathbf{e}_1),T(\mathbf{e}_2),\cdots,T(\mathbf{e}_n)\)
基底\(E’\)で表したときの成分によって求めることができます。

先ほど得られた関係を「形式的に」行列を用いて表示すると

\((T(\mathbf{e}_1)\,\,\,T(\mathbf{e}_2)\,\,\,\cdots\,\,\,T(\mathbf{e}_n))=(\mathbf{e’}_1\,\,\mathbf{e’}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e’}_m)A\)

と表すことができます。

そのため下の定義\([2]\)が得られます。

定義\([2]\)
\((T(\mathbf{e}_1)\,\,\,T(\mathbf{e}_2)\,\,\,\cdots\,\,\,T(\mathbf{e}_n))=(\mathbf{e’}_1\,\,\mathbf{e’}_2\,\,\cdots\,\,\mathbf{e’}_m)A\)をみたすような
\((m,n)\)行列\(A\)を基底\(E,E’\)に関する\(T\)の表現行列と呼ぶ。

また第二基礎定理を用いて,写像の合成は行列の積に対応することを用いれば,
以下のことが可換図式から簡単に証明できます(要望があれば証明を書きます)。

  • 同型\(T\)の基底\(E,E’\)に関する表現行列が\(A\)\(\,\,\Rightarrow\,\,\)逆写像\(T^{-1}\)の基底\(E’,E\)に関する行列は\(A^{-1}\)
  • 線形写像\(T\)の基底\(E,E’\)に関する表現行列が\(A\),線形写像\(T’\)の基底\(E’,E”\)に関する表現行列が\(B\)
    \(\Rightarrow\,\,\)合成写像\(T\circ T’\)の基底\(E,E”\)に関する表現行列は\(BA\)

例えば\(2\)つ目のpointは,下の可換図式を用いることで証明できます。

基底の違い

定義で述べましたが,同じ線形写像\(T\)でも基底の取り方によって表現行列は異なります。

そのことについて調べていきましょう。

これまでと同じ設定で
さらに別の\(V\)の基底\(F\),\(V’\)の基底\(F’\)をとったときの
基底\(F,F’\)に関する\(T\)の表現行列\(B\)としましょう。

\(B\)と\(A\)の関係を求めていきましょう。

そのためには定義\([1]\)の\(A,B\)に関する可換図式を下のようにくっつけてみます。

すると上の図から

\(T_B=(\varphi_{E’}\circ \varphi_{F’}^{-1})^{-1}\circ T_A\circ \varphi_{E}\circ\varphi_{F}^{-1}\)

となることが分かります。

ここで基底変換行列について思い出しましょう。

基底変換\(E\to F\)の行列を\(P\),基底変換\(E’\to F’\)の行列を\(Q\)とおくと
\(T_P=\varphi_{E}\circ \varphi_{F}^{-1},T_Q=\varphi_{E’}\circ \varphi_{F’}^{-1}\)となります。

よって先ほどの式(もしくは上の可換図式)から
\(T_B=T_{Q}^{-1}\circ T_A\circ T_P\)となります。

第二基礎定理により
写像の合成と行列の積を結びつけると\(T_B=T_{Q^{-1}AP}\)

すなわち\(B=Q^{-1}AP\)が得られます。

特に\(V=V’,E=E’,F=F’\)とすると基底変換行列が同じになるので
\(B=P^{-1}AP\)が得られます。

このように,基底の取り方を変えれば,
ある正則行列\(P\)によって\(P^{-1}AP\)と挟まれることが分かります。

また逆に正則行列\(P\)によって\(P^{-1}AP\)となる行列について,
基底をうまく取り換えれば\(T\)の表現行列となることも示すことができます。
※証明は省略しますが,要望があれば解説いたします。

そこでこの特別な関係を相似関係として定義しましょう。

定義
\(n\)次正方行列\(A\)と\(B\)が相似であるとは
ある\(n\)次正則行列が存在して\(B=P^{-1}AP\)となることである。

相似関係については不変量などのもっと説明すべきことがあるので,別の記事で改めて解説しようと思ってます。

しかし次節で軽くそのイメージについて触れておきます。

相似関係のイメージ

イメージとして,表現行列において,基底の違いは表現方法の違いになります。

例えば「木」を表現するとき,木の絵を描いたり,木の写真を見せたり,自分が木の恰好になったりと様々な表現方法の違いがあります。

しかしどの表現方法であっても「木」という「表現しているもの」自体は共通しています。

基底を取り換えても線形写像\(T\)を表現していることには変わらないということです。

そのため「表現しているもの」を研究する際,
ただ表現方法が異なるだけのものは「同じ」とみなすという考え方が生まれます。

つまり表現という観点においては行列\(A,B\)が「相似である」ということを「同じ」とみなすべきということです。

故に相似関係は取り上げて定義されているのですね。

「相似である」は表現において「同じである」みなせる。

少し踏み込んだことを言えば,有限群の表現論においても,
行列表現と呼ばれるものが同値(同じ)であることの定義は
\(B(g)=P^{-1}A(g)P^{-1}\)という似た式が登場します。

ここでも根幹となる考え方は一緒になります。

まとめ

今回の記事では表現行列を解説いたしました。

表現行列はベクトル空間上の線形写像を表現するものであることを理解していただけたでしょうか。

また「相似である」は表現において「同じである」とみなせることも理解していただけたでしょうか。

物理学の応用や具体例についてはまた別の記事で書くつもりなので,
そちらをお待ちいただけると幸いです。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) 斎藤正彦.”線形代数入門 基礎数学1″.初版.東京大学出版.1966出版.p.113-115

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