【代数学】標数とは? 体論における基礎知識を解説

2023.12/30

こんにちは!半沢です!

今回の記事では体論(たいろん)において重要な量となる標数(characteristic)について解説したいと思います。

ある標数で成り立っていた定理が,別の標数上では成り立たないことがよく起こります

この記事では,なぜそれが起こるのかも含めて,標数の性質から解説していきたいと思います。

ぜひ読んでいってください。

標数(characteristic)

標数について学んでいきましょう。

定義

まずは定義を確認していきましょう。

これらの2つの定義は一致することに注意しましょう。
(「証明」に一致性についての証明は載せております。)

\(K\)を体,\(1_K\)を\(K\)の(乗法)単位元,\(0_K\)を\(K\)の零元(加法単位元)とする。

定義\([1]\)
\(1_K\)を\(n\)回加えると\(0_K\)となるような自然数\(n\)のうち,
最小の数を\(K\)の標数と呼び,\(\mathrm{ch}K\)で表す。
ただし\(1_K\)を何回加えても\(0_K\)とならないときは,標数を\(0\)と定める

定義\([2]\)
環準同型写像\(\phi:\mathbb{Z}\to K,\quad n\mapsto n\cdot 1_K\)について,\(\mathrm{Ker}(\phi)\)は\(\mathbb{Z}\)の素イデアルとなる。
故に素数\(\,p\,\)があり\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)もしくは\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)となるので,
\(K\)の標数\(\mathrm{ch}K\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)のとき,\(p\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)のとき,\(0\)として標数を定める。

性質

標数の重要な性質は下のようになります。

  1. 標数は\(0\)素数である。
  2. 標数が\(0\)なら\(\mathbb{Q}\),\(p\)なら\(\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)を含むとみなせる
  3. 異なる標数を持つ体の間に準同型写像は存在しない
  4. ここからは体\(K\)について\(\mathrm{ch}K=p\,\)(\(p\)は素数)とする。

  5. \(p(=p\cdot 1_K)=0\)が成り立つ。
  6. \((x+y)^p=x^p+y^p\)が成り立つ。
  7. \(1/p\)は\(K\)の中に存在しない。
  8. 自然数\(\,n\,\)は\(\,p\,\)で割り切れない\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)\(\overline{K}\)は\(1_K\)の原始\(n\)乗根を含む
  9. ※\(\overline{K}\)は\(K\)の代数閉包を表します。

まずは性質①についてですが,これは定義\([2]\)の中で軽く証明してあるので,
そちらをご確認ください。

性質②についてです。

標数は任意の体で存在するので,この性質から,
最小の体として,
標数が\(0\)ならとして\(\mathbb{Q}\),
\(p\)なら\(\mathbb{F}_p\)を含む
ことが分かります。

この最小の体\(\mathbb{Q}\)や\(\mathbb{F}_p\)のことを素体と呼びます。

つまり標数どの素体を含んでいるのか教えてくれる数と言えます。

証明は定義\([2]\)内の環準同型\(\phi\)に対して,準同型定理を用いると\(\mathrm{Im}(\phi)\cong \mathbb{Q} \,\mathrm{or} \,\mathbb{F}_p\)となることから証明されます。

性質③はまさに標数が「(しるべ)(かず)」となることを表しています
(英語では「特徴量(characteristic)」となっています)。

なぜなら性質③は,標数が異なる体はつながらないことを表しているからです。

証明は「証明」に載せておきます。かなり簡単なので,読んでみてください。

性質④については定義\([1]\)そのまんまです。

性質⑤についてです。

この式は計算で使用するので,理解しておきましょう。

証明は簡単で二項定理より
\((x+y)^p=x^p+{}_p\mathrm{C}_1+\cdots+{}_p\mathrm{C}_{p-1}+y^p\)となります。

ここで\({}_p\mathrm{C}_{i}\,(1\leq i \leq p-1)\)は\(p\)の倍数となる(証明略)ので,
性質④よりすべて\(0\)になり\(x^p,y^p\)だけが残ります。

したがって\((x+y)^p=x^p+y^p\)となります。

性質⑥についてです。

この性質⑥は「\(1/p\)を使うことができない」ということなので,
標数によって成り立つ定理が異なる理由の一因となっています

ですので筆者としては覚えてほしい性質になります。

証明は,
性質④より\(p=0\)となり\(0\)は逆元を持たないので,\(1/p\)も存在しない,
となります。

最後に性質⑦についてです。

これは「\(n\)が\(p\)で割り切れれば,\(1\)の原始\(n\)乗根を使うことができない」ことを表しています。

よってこれも,標数によって成り立つ定理が異なる理由の一因となっています

もちろんこれも絶対に覚えておきましょう。

証明はかなり長いので,「証明」に載せておきます。

まとめ

今回の記事では「標数」について解説して参りました。

標数は体論における基礎の概念なので,絶対に理解しておきましょう。

また「性質」で挙げた,標数\(p\)の体について「\(1/p\)は存在しない」「\(n\)は\(p\)で割り切れない\(\Leftrightarrow\)\(K\)は\(1\)の原始\(n\)乗根を含む」ことは,定理に地味に効いてくるので一番理解してほしいです。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

最後に詳しい証明も載せているので,余裕があればご覧になってください。

証明

ここでは記事の中で証明しきれなかった,定義\([1]\)と\([2]\)の同値性,性質③,⑦の証明を行いたいと思います。

\(K\)を体,\(1_K\)を\(K\)の(乗法)単位元,\(0_K\)を\(K\)の零元(加法単位元)とする。

定義\([1]\)
\(1_K\)を\(n\)回加えると\(0_K\)となるような自然数\(n\)のうち,
最小の数を\(K\)の標数と呼び,\(\mathrm{ch}K\)で表す。
ただし\(1_K\)を何回加えても\(0_K\)とならないときは,標数を\(0\)と定める

定義\([2]\)
環準同型写像\(\phi:\mathbb{Z}\to K,\quad n\mapsto n\cdot 1_K\)について,\(\mathrm{Ker}(\phi)\)は\(\mathbb{Z}\)の素イデアルとなる。
故に素数\(p\)があり\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)もしくは\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)となるので,
\(K\)の標数\(\mathrm{ch}K\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)のとき,\(p\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)のとき,\(0\)として標数を定める。
性質③  異なる標数を持つ体の間に準同型写像は存在しない。
性質⑦  自然数\(\,n\,\)は\(\,p\,\)で割り切れない\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)\(\overline{K}\)は\(1_K\)の原始\(n\)乗根を含む。

まず定義\([1],[2]\)の一致性についての証明です。

[証明] 定義\([1],[2]\)のそれぞれにおいて\(\mathrm{ch}K=0\)となるときが一致することは自明。

そのため標数が\(0\)でないときの一致性を示せばよい。

よってどちらの定義においても,標数が\(0\)でないものとする。

体\(K\)にたいして,定義\([1],[2]\)のそれぞれの条件を満たすような自然数\(\,n\,\)と素数\(\,p\,\)を取ってくる(標数はその定義より存在性は保障されているので取れる)。

この\(\,n,p\,\)が一致することを示せばよい。

\(p\,\)の条件から\(p\cdot 1_K =0\)であり,\(n\)はそのような自然数のうち最小のものなので,\(n\leq p.\)

また\(n\cdot 1_K=0\)であるので,\(n\in \mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)となる。

よってある整数\(\,a\,\)が存在して\(n=pa\)となるが,\(n,p\,\)は自然数より\(a\gt 0\),つまり\(a \geq 1\)となる。

\(a\geq 1\)より\(n=pa\geq p\)となる。

\(n\leq p,n\geq p\)より\(n=p\)となり,確かに\(\,n,p\,\)は一致する。

したがって題意は示された。

次は性質③についての証明となります。

この証明では定義\([1]\)を基に証明しています。

[証明] 対偶法により証明を行う。

対偶を定式化すると「体\(K,L\)の間の準同型\(\psi:K\to L\)が存在する\(\,\Rightarrow\,\)\(\mathrm{ch}K=\mathrm{ch}L\)」となることを確認しておく。

体から体(環)への準同型は単射なので,\(\psi\)も単射であることに注意すると,
任意の自然数\(n\)について次の同値変形が成り立つ。

※特に上の画像の二行目の同値変形の\(\Leftarrow\)に単射性が用いられている。

\(K,L\)の少なくとも片方の標数が\(0\)のときは,この同値式より,もう片方も標数\(0\)となり一致することがわかる。

どちらの標数も\(0\)でない場合は
この同値式\(\,\,n\cdot 1_K=0_K\Leftrightarrow n\cdot 1_L=0_L\)の\(\,n\,\)として\(\mathrm{ch}K,\mathrm{ch}L\)を代入し,
標数の最小性から\(\,\,\mathrm{ch}K \leq \mathrm{ch}L,\,\mathrm{ch}K \geq \mathrm{ch}L\)となる。

よってこのときも\(\,\,\mathrm{ch}K = \mathrm{ch}L\)となる。

したがって題意は示された。

最後は性質⑦の証明になります。

\(1_K\)を簡単のために\(1\)と書くことにします。

[証明] \(\Leftarrow\)について

対偶法で示す。

対偶は「自然数\(n\)は\(p\)で割り切れる\(\Rightarrow\)\(\overline{K}\)は\(1\)の原始\(n\)乗根を含まない」となることを確認しておく。

任意の\(1\)の\(n\)乗根\(\omega\in \overline{K}\)について,\(\omega^n-1=0\)である。

\(n\)は\(p\)で割り切れるので,自然数\(s\,(1\leq s \lt n)\)を用いて\(n=ps\)と書ける。

よって性質⑤の式\((x+y)^p=x^p+y^p\)を用いると,
\(\omega^n-1=(\omega^{s})^{p}+(-1)^{p}=(\omega^{s}-1)^p\)となる。
※\(p=2\)のときも,標数\(2\)となり\(-1=+1\)なので,この式変形は成り立ちます。

つまり\((\omega^{s}-1)^p=0\),すなわち\(\omega^{s}=1\)となる。

この式と\(1\leq s \lt n\)は,任意の\(1\)の\(n\)乗根\(\omega\)は\(1\)の原始\(n\)乗根となりえないことを表している。

したがって\(\Leftarrow\)は示された。

\(\Rightarrow\)について

\(f(x)=x^n-1\)とおき,この多項式の根を\(\omega\in \overline{K}\)とおく。

\(f'(x)=nx^{n-1}\)より\(f'(\omega)=n\omega^{n-1}\)となる。

\(f'(\omega)=0\)と仮定すると,\(n\omega^{n-1}=0\)で\(n\)は\(p\)で割り切れないことから\(\,n\not=0\)

ゆえに\(\omega^{n-1}=0\)となるが,両辺に\(\omega\)をかけることで,\(1=\omega^{n}=0\)となり矛盾するので,\(f'(\omega)\not=0\)
※\(0=1\)となる体である\(\{0\}\)も広義で言えば体ですが,そのようなつまらない体は除くものとしています。

つまり\(f(x)\)の任意の根\(\omega\)について
\(f(\omega)=0\Rightarrow f'(\omega)\not= 0\)が示された。

よって\(f(x)\)は重根を持たない。

つまり\(\overline{K}\)には相異なる\(n\)個の\(1\)の\(n\)乗根がある。

これらを集めた集合\(G\)は乗法群\(\overline{K}^{\times}\)の位数\(n\)有限部分群となる。

乗法群は可換なので\(G\)も可換となり,有限アーベル群の基本定理より
\(G\cong\mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z}\)となる自然数\(s\),\(2\)以上の自然数\(e_1,\cdots,e_s\)で,
\(1 \leq i \leq s-1\)に対し\(e_{i+1}\)を\(e_i\)で割り切るものが存在する。

もしも\(s\geq 2\)とすると\(e_2\)は\(e_1\)で割り切れるので,\(e_1\)を割り切る素数\(p\)(存在性は\(e_1\geq 2\)よりOK)を取ってくると,\(e_2\)は\(p\)で割り切れる。

これより\(G\)には位数が\(p\)の約数であるような元が少なくとも,\(p^{2}\)個存在することが言える。

※ここは行間がやや跳んでいるように感じるかもしれないので,具体例を交えて少し補足します。
例えば\(p=3\)のときは\(\mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z}\)で,
その元を第三成分以降を省略して書くと
\((0,0),(\tfrac{e_1}{3},0),(\tfrac{2e_1}{3},0),\)
\((0,\tfrac{e_2}{3}),(\tfrac{e_1}{3},\tfrac{e_2}{3}),(\tfrac{2e_1}{3},\tfrac{e_2}{3}),\)
\((0,\tfrac{2e_2}{3}),(\tfrac{e_1}{3},\tfrac{2e_2}{3}),(\tfrac{2e_1}{3},\tfrac{2e_2}{3})\)
の\(9\)個の元に対応する\(G\)の元を取ってくるということになります。

これより\(x^{p}-1\)の根の数が\(p^{2}\)個以上あることになり,\(x^{p}-1\)は\(p\)次多項式なので矛盾。

したがって\(s=1\)となり,これは\(G\)が巡回群であることを表す。

よってその生成元を取ると,それは原始\(n\)乗根となり,\(\Rightarrow\)は示された。

したがって題意は示された。

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