【群論】可解群の性質・具体例は? その性質が成り立つイメージまで解説

2023.12/15

こんにちは!半沢です!

この記事では前回の可解群の記事に引き続き,可解群(solvable group)について解説していきます。

前回と異なり,今回は可解群の性質や具体例を中心に解説をしていきます。

ぜひ読んでいってください。

可解群

性質

一気に性質を列挙していきます!

性質\([1]\)
群は可

性質\([2]\)
可解群の部分群も可解群

性質\([3]\)
可解群の剰余群も可解群

性質\([4]\)
群\(G\)について,\(N\vartriangleleft G\)で\(N\)と\(G/N\)が可解群\(\,\,\Rightarrow\,\,\)\(G\)も可解群

性質\([5]\)
可解群の(有限個の)直積群も可解群

性質のイメージ

前回の可解群の記事も一緒にご覧になると,
分かりやすくなると思います。

可解群の記事で解説したように,可解群は「方程式の可解性」を群の言葉で翻訳したものでしたね。

そのため,上記の性質を方程式の世界(体)で考えるとイメージしやすいです

※ガロア対応を未学習の方は,ここからの話は難しいので,
次の節「具体例」まで飛んでいただいた方がいいかもしれません。

まず性質\([1]\)についてです。

有限アーベル群の基本定理より,可換群巡回群に分解できるのでした。

そして可解群で解説したように,巡回群は方程式の世界でべき根\(\sqrt[n]{\quad}\)をとることに対応するのでした。

つまり可換群は解への道のりをべき根\(\sqrt[n]{\quad}\)をとる操作に分解でき,
そうして解に辿りつくことができる
と言えます。

そのため可換群可解群です。

次の性質\([2]\)のイメージは簡単です。

ガロア対応により,方程式\(f(x)=0\)に群をひも付けし,
その群が可解群であるかが,代数的に解けるかに関係するのでした。

このひも付けされた群について,
一般三次方程式には3次対称群\(\mathfrak{S}_{3}\),一般二次方程式には2次対称群\(\mathfrak{S}_2\)というように,
解きやすい方程式ほど,対応する群が簡単になっています

逆も然りで,群が簡単なほど,その群に対応する方程式を解きやすくなります

部分群は元の群より小さいので,より簡単であると言えるでしょう。

元の群が可解群である,つまり「方程式が解けるくらいには簡単である」ということですから,
その部分群ももちろん可解群になるとイメージできるのです。

ざっくり言えば「三次方程式が解けるなら,そりゃ二次方程式も解けるよな」的な感じです。

続いては性質\([3],[4]\)を一気に解説していきます

性質\([3],[4]\)では剰余群が出てきているので,
剰余群方程式の世界(体)で何を表すのかを考えなければなりません。

拡大体\(L/K\)の途中に中間体\(M\)がある状況を考えましょう。

つまり\(L\supset M\supset K\)という状況です。

細かい条件は省きますが,ガロア群について
\(\mathrm{Gal}(M/K)\cong \mathrm{Gal}(L/K)/\mathrm{Gal}(L/M)\)が成り立ちます。

あくまで私のイメージですが,
\(\mathrm{Gal}(M/K)\)は「\(K\)から中間地点\(M\)までの地図」と考えられます。

そのため同型により,方程式の世界では剰余群は「中間地点までの地図と言えるでしょう。

性質\([3]\)の仮定は,「もとの群が可解」,つまり「\(K\)から\(L\)まで辿りつける」ことに対応します。

そのため「\(K\)からその中間地点\(M\)まで辿りつける」と言え,
先ほどの考え方により,これは「剰余群可解群である」に対応します。

また性質\([4]\)の前提の「\(G/N\)が可解である」は「\(K\)から\(M\)に辿りつけます」,
「\(N\)が可解である」は「\(M\)から\(L\)に辿りつけます」に対応します。

したがって「\(K\)から\(L\)まで辿りつけます」,つまり「\(G\)が可解群」が言えるということです。

最後は性質\([5]\)についてです。

一番簡単な場合として,群\(G,H\)が可解なとき,
なぜ直積群\(G\times H\)が可解群になるのかを考えましょう。

ここも直積群方程式の世界(体)で何を表すのかを考えましょう。

図に示されるような体の拡大があったとします。

ここで\(M\cdot N\)は合成体と呼ばれるもので,
この合成体は「\(M\)と\(N\)の合流地点と考えられます。

ここでガロアの推進定理により,細かい条件を省けば以下のことが成り立ちます。

\(\mathrm{Gal}(M\cdot N/K)\cong \mathrm{Gal}(M/K)\times \mathrm{Gal}(N/K)\)

よってこの同型により,方程式の世界では直積群は「合流地点までの地図と言えるでしょう。

性質\([5]\)の前提の「\(G\)が可解群である」は,先ほどの図で「左のルートを進める」ことに対応します。

そして「\(H\)が可解群である」は「右のルートを進める」ことに対応します。

そのため例えば,\(K\)から右のルートを一回進み,左のルートを一回進むことで「合流地点\(M\cdot N\)に辿りつける」と言えます。

つまり「直積群\(G\times H\)可解群である」と言えるということです。

イメージの話は人によっては,分かりづらいと思います。

そのような場合はX(旧:Twitter)で質問していただけると,回答いたします。お待ちしております。

具体例

抽象的な議論ばかりしているので,具体例にも踏み込みましょう

代表的な可解群としてはやはり,
1,2,3,4次対称群\(\mathfrak{S}_{1},\mathfrak{S}_{2},\mathfrak{S}_{3},\mathfrak{S}_{4}\)でしょう。

\(\mathfrak{S}_{1},\mathfrak{S}_{2},\mathfrak{S}_{3},\mathfrak{S}_{4}\)が可解群であることは,一,二,三,四次方程式が代数的に解けることを意味するので絶対に覚えておきましょう

これらが可解群であることの証明は具体例の証明にまとめていますので,ご覧ください。

逆に可解群でないものとして,5次対称群\(\mathfrak{S}_{5}\)が挙げられます。

これは五次方程式が代数的に解けないことを意味するので,絶対に覚えておきましょう。

この5次対称群が可解でないことは,長いため証明を省略させていただきます(要望があれば書くかもしれません)。

まとめ

この記事では前回の記事の続編として,可解群の性質や具体例を中心に,
可解群を解説してきました。

皆さんにとって可解群の性質がすんなり理解できるようなイメージになっていたら,
筆者として嬉しいです。

もし説明がわかりにくいなどご要望がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

一応補足として「性質の証明」,「具体例の証明」もありますので,気になる方は覗いてみてください。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

証明

ここでは可解群の定義を

定義\([1]\)
群\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(i=1,2,\dots,n\)について
\(G_{i-1}/G_{i}\)が可換群となるものが存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。

として証明を行っていきます。

性質の証明

[証明] 性質\([1]\)について

\(G\)を任意の可換群とすると,その正規列として\(G\vartriangleright\{1_{G}\}\)がとれ,
\(G/\{1_{G}\}\cong G\)より,その隣り合う剰余群は可換。

したがって\(G\)は可解群であり,証明終了。
性質\([2]\)について

\(G\)を任意の可解群,\(H\)をその任意の部分群とする。

\(G\)は可解群なので,
群\(G\)の(正規列)\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(i=1,2,\dots,n\)について
\(G_{i-1}/G_{i}\)が可換群となるものが存在する。

ここで
\(i=0,1,\cdots,n\)について\(H_{i}=G_{i}\cap H\)とおくと,
\(H\)の部分群列\(H=H_{0}\supset H_{1}\supset\cdots\supset H_{n}=\{1_{G}\}\)をとることができる。
※\(H_{i}\)が部分群になることや,\(H_{i-1}\supset H_{i}\)であることは自明であるとし,証明を省略する。

後はこの部分群列が条件を満たすような正規列であることを示せば良い。

故にまずは\(H_{i-1}\vartriangleright H_{i}\)であることを示そう。

任意の\(a\in H_{i-1},b\in H_{i}\)について\(aba^{-1}\)を考えよう。

条件より\(a,b\in H,\,\,\,a\in G_{i-1},\,\,\, b\in G_{i}\)であることに注意する。

部分群\(H\)は演算で閉じているので\(aba^{-1}\in H\)

また\(G_{i-1}\vartriangleright G_{i}\)より\(aba^{-1}\in G_{i}\)である。

つまり\(aba^{-1}\in G_{i}\cap H = H_{i}\)である。

これは\(H_{i-1}\vartriangleright H_{i}\)を意味する。

よって次は\(H_{i-1}/H_{i}\)が可換群であることを示そう。

\(G_{i-1}\supset G_{i-1}\cap H,G_{i}\)なので,\(G_{i-1}\supset (G_{i-1}\cap H)G_{i}\)。

ゆえに\((G_{i-1}\cap H)G_{i}/G_{i}\)は可換群\(G_{i-1}/G_{i}\)の部分群なので,もちろん可換群。

つまり\(H_{i-1}/H_{i}\)は可換群となる。

以上より部分群\(H\)は可解群である。

性質\([3]\)について

\(G\)を任意の可解群,\(N\)をその任意の正規部分群である(剰余群\(G/N\)を定義するために必要)とする。

\(G\)は可解群なので,
群\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(i=1,2,\dots,n\)について
\(G_{i-1}/G_{i}\)が可換群となるものが存在する。

ここで
\(i=0,1,\cdots,n\)について\(N_{i}=G_{i}N\)とおくと,
\(N\)を含むような部分群列\(G=N_{0}\supset N_{1}\supset\cdots\supset N_{n}=N\)をとることができる。

ここからは剰余群と部分群の対応により,これらを\(G/N\)における正規列に対応させ得ることを確認し,
それらが条件を満たすような正規列であることを示す流れとなる。

少々分かりづらいと思うが,それを意識しながら証明を追ってほしい。

まず\(N\)を含むような部分群列\(G=N_{0}\supset N_{1}\supset\cdots\supset N_{n}=N\)が正規列であることを示そう。

任意の\(gn\in N_{i-1}=G_{i-1}N,\,\,\,g’n’\in N_{i}=G_{i}N\)をとってくる。

このとき

つまり\((gn)(g’n’)(gn)^{-1}\in N_{i}\)で,確かに\(N_{i-1}\vartriangleright N_{i}\)が示された。

つまり現時点で\(N\)を含むような正規列
\(G=N_{0}\vartriangleright N_{1}\vartriangleright\cdots\vartriangleright N_{n}=N\)
がとれていることが分かる。

この正規列を剰余部分群と部分群との対応により,\(G/N\)での正規列に落とし込み
正規列\(G/N=N_{0}/N\vartriangleright N_{1}/N\vartriangleright\cdots\vartriangleright N_{n}/N=N/N=\{1_{G/N}\}\)をとることができる。

※この対応で正規列が保存されることの証明は省略していますが,要望があればその対応について記事にしようと思っております。

故に後はその剰余群\((N_{i-1}/N)/(N_{i}/N)\)が可換群となっているかを確認すればよい。

これは第三同型定理より\((N_{i-1}/N)/(N_{i}/N)\cong N_{i-1}/N_{i}\)となる。

つまり\(N_{i-1}/N_{i}\)が可換群となっていることを示せばよい。

任意の\(gn,g’n’\in N_{i-1}=G_{i-1}N\)について
\((gnN_{i})(g’n’N_{i})\)を考えよう。

つまり\((gnN_{i})(g’n’N_{i})=(g’n’N_{i})(gnN_{i})\)であるので,\(N_{i-1}/N_{i}\)は可換群。

したがって条件を満たす正規列として
\(G/N=N_{0}/N\vartriangleright N_{1}/N\vartriangleright\cdots\vartriangleright N_{n}/N=N/N=\{1_{G/N}\}\)をとることができたので,
\(G/N\)は可解群。

性質\([4]\)について

\(G/N\)が可解群であるので,可解群の条件を満たすような正規列が存在する。

この正規列を剰余部分群と部分群との対応により,
\(G\)の中で\(N\)を含むような正規列を対応させることができる。

よってその正規列を群\(G\)の(正規列)\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n =N\)とおく。

またここでも第三同型定理より\(G_{i-1}/G_{i}\cong (G_{i-1}/N)/(G_{i}/N)\)である。

\(G_{i}\)と取り方から,\((G_{i-1}/N)/(G_{i}/N)\)は可換群であるので,\(G_{i-1}/G_{i}\)も可換群であることを押さえておく。

また\(N\)も可解群であるので
\(N\)の正規列\(N=N_0\vartriangleright N_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright N_{n’} =\{1_{G}\}\)で
隣り合う剰余群は可換群となるものが存在する。

つまり\(G\)の正規列として
\(G=G_0\vartriangleright \cdots\vartriangleright G_{n}=N=N_{0}\vartriangleright\cdots\vartriangleright N_{n’} =\{1_{G}\}\)で
その隣り合う剰余群は可換群となるものが存在する。

したがって\(G\)は可解群となり,証明終了。
性質\([5]\)について

二個の群についての直積群について示せば十分。

そこで\(G,H\)を任意の可解群とし,その直積群\(G\times H\)を考えよう。

可解群の条件を満たすような
群\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_{G\times H}\}\)と,
群\(H\)の正規列\(H=H_0\vartriangleright H_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright H_n=\{1_{G\times H}\}\)が存在する。

故にこれらの正規列を利用して,\(G\times H\)での可解群の条件を満たすような正規列
\(G\times H=G\times H_{0}\vartriangleright G\times H_{1} \vartriangleright\cdots\vartriangleright G\times H_{n}=G\)
\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_{G\times H}\}\)をとることができる。

したがって\(G\times H\)は可解群であり,証明終了。

具体例の証明

ここでは具体例で出てきた

1~4次対称群\(\mathfrak{S}_{1},\mathfrak{S}_{2},\mathfrak{S}_{3},\mathfrak{S}_{4}\)は可解群である。

を証明していきます。

[証明] \(\mathfrak{S}_{1},\mathfrak{S}_{2}\)は可換群なので,性質[1]より可解群である。

\(\mathfrak{S}_{3}\)については,巡回群\(\langle(123)\rangle\)を考える。

\(\langle(123)\rangle\)は可換群であるので可解群であり,
ラグランジュの定理よりその指数は\(2\)であるので正規部分群。

よってその剰余群が定義できるが,
それはもちろん位数\(2\)の群となり,これは可換群なので可解群。

よって性質\([4]\)より\(\mathfrak{S}_{3}\)は可解群。

最後に\(\mathfrak{S}_{4}\)についてはクラインの四元群(\(\mathfrak{S}_{4}\)で(\(2,2)\)型の置換の群)を考える。

クラインの四元群は可換な正規部分群より可解群。

さらに,その剰余群は\(\mathfrak{S}_{3}\)と同型なので,先ほどの結果から可解。

※クラインの四元群の性質については,すみませんが証明省略とさせてください。これも要望が多ければ書きたいと思います。

よって再び性質\([4]\)より\(\mathfrak{S}_{4}\)は可解群。

以上より題意は示された。

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