【代数学】ガロア理論入門 ―Chapter 1― 二次方程式の解の公式にはなぜ根号があるのか?

2024.01/24

こんにちは!半沢です!

今回の記事から「五次方程式はなぜべき根による解の公式が存在しないのか?」を中心に,
ガロア理論のイメージについて解説したいと思います。

前提知識は高校数学だけで解説していきます。

ガロア理論の全てを一つの記事で解説するのは長くなるので,
連載記事で解説いたします。

第一記事目となるこの記事では導入として
二次方程式の解の公式は,なぜ二乗根\(\sqrt{\quad}\)なしで表せられないのか?」を中心に解説していきます。

ぜひ読んでいってください!

「五次方程式はべき根による解の公式が存在しない」とは?

まずは「五次方程式はべき根による解の公式が存在しない」とは,どういうことかを確認していきましょう。

かみ砕いて言えば次のようになります。

五次方程式はべき根による解の公式が存在しない」とは

一般五次方程式\(\,\,x^{5}+ax^{4}+bx^{3}+cx^{2}+dx+e=0\,\,\)の解は,

係数\(\, a\, ,b\, ,c\, ,d\, ,e\,\)

有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\, ,\sqrt[n]{\quad}\,\)を用いて表せない。

一般五次方程式とは,書いてある通り\(\,\,x^{5}+ax^{4}+bx^{3}+cx^{2}+dx+e=0\,\,\)のことです。

係数の\(\,\, a\, ,b\, ,c\, ,d\, ,e\,\,\)は\(\,\,1\,\,\)や\(\,\,2\,\,\)といった具体的な数ではなく文字であることに注意してください。

よくある誤解

先程の「五次方程式はべき根による解の公式が存在しない」を,
「すべての五次方程式はべき根によって解けない」と絶対に誤解しないようにしましょう。

例えば一般でない五次方程式\(\,\,x^{5}-2=0\,\,\)の解は

\(1\)のべき根\(\,\,\sqrt[5]{1}=\cos\frac{2\pi}{5}+i\sin\frac{2\pi}{5}\,\,\)を用いて,

\(\sqrt[5]{2}\quad ,\sqrt[5]{2}\sqrt[5]{1}\quad ,\sqrt[5]{2}\sqrt[5]{1}^{2}\quad ,\sqrt[5]{2}\sqrt[5]{1}^{3}\quad ,\sqrt[5]{2}\sqrt[5]{1}^{4}\)

表せてしまいます。

一方,同じく一般でない五次方程式\(\,\,x^{5}-10x-2=0\,\,\)の解は
係数\(\,\, a\, ,b\, ,c\, ,d\, ,e\,\,\)と
有理数と演算\(\,\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\, ,\sqrt[n]{\quad}\,\,\)を用いて表せないことが知られています。(参考図書[1]より)

結局まとめると下のようになります。

  • 一般でない五次方程式の解は
    係数\(\, a\, ,b\, ,c\, ,d\, ,e\,\)と有理数と演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\, ,\sqrt[n]{\quad}\,\)を用いて
    表せないこともあれば,表せることもある。
  • 「すべての五次方程式はべき根によって解けない」は間違いである。

五次方程式の解の公式が存在しない原理\([1]\)

この章では「五次方程式はなぜべき根による解の公式が存在しないのか?」を理解するために,
より簡単な「二次方程式の解の公式は,なぜ二乗根\(\sqrt{\quad}\)なしで表せられないのか?」を考察していく流れになっていきます。

条件を緩くして考える

係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\, ,\sqrt[n]{\quad}\)を用いて表せないことを知るためには,
逆に表せる範囲を知れば良いですね。

つまり下の問い\([0]\)の答えが出れば良いわけです。

問い\([0]\)
一般方程式の解が
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\, ,\sqrt[n]{\quad}\)
を用いて表せるのは何次までか?

しかしこのままでは難しいので,
べき根\(\sqrt[n]{\quad}\)をなくして考えましょう。

すると問い\([0]\)は下のように書き換えられます。

問い\([1]\)
一般方程式の解が
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\,\)
を用いて表せるのは何次までか?

さらに「〇〇と有理数と演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\)を用いて書けるもの」は長いので,
〇〇の有理式」と呼ぶことにするとこのように書き換えられます。

問い\([1]\)
一般方程式の解が
係数の有理式で表せるのは何次までか?

この問いの答えはなんでしょうか?

こちらの問いの答えは多くの方が知っているはずです。

そうです!一般一次方程式\(\,\,x+a=0\,\,\)までです。

なぜなら一般二次方程式\(\,\,x^{2}+ax+b=0\,\,\)の解は

\(x=\dfrac{-a\pm\sqrt{a^2-4b}}{2}\)であり,

この中にはルート\(\sqrt{\quad}\)を使ってしまっています。

つまり一般二次方程式の解は
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\,\)を用いて表せない」
ということですね。

ではなぜそうなるのでしょうか?

この原理を理解するために,
ガロア理論的観点から問\([1]\)の答えを導出していくことが今回の記事の目的です。

次節では,この原理を理解するための第一段階となる「解と係数の関係」について解説いたします。

解と係数の関係

解と係数の関係とは下の等式のことでした。
※高校数学で学習するので,導出等は省きます。

解と係数の関係

一般\(\,n\,\)次方程式
\(\,\,x^{n}+a_1x^{n-1}+\cdots+a_{n-1}x+a_n=0\,\,\)について
その解を\(\,\,\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n\,\,\)とおくと,次の\(n\)個の等式が成り立つ。

具体的に,\(\,3\,\)次方程式の場合の,解と係数の関係を確認しておきましょう。

三次方程式\(\,\,x^{3}+ax^{2}+bx+c=0\,\,\)の解\(\,\,\alpha,\beta,\gamma\,\,\)についての解と係数の関係は

となります。

ここで,この解と係数の関係の右辺の式の\(\,-1\,\)を省いたもの

例えば
\(\alpha_1+\alpha_2+\cdots+\alpha_n\quad\),\(\quad\displaystyle\sum_{i\lt j}^{n}\alpha_i\alpha_j\quad\),\(\quad\alpha_1\alpha_2\cdots\alpha_n\)

基本対称式と呼びます。

この「基本対称式」という言葉を用いると解と係数の関係は次のように言えます。

解と係数の関係
係数解の基本対称式で表され,
逆に解の基本対称式係数で表される
ことを述べている。

このことを用いると問い\([1]\)は

問い\([2]\)
一般方程式の解が
解の基本対称式の有理式で表せるのは何次までか?

と書き直せることが分かります。

図でまとめると次のようになります。

次節では第二段階となる「対称式」について詳しく見ていきましょう。

対称式

対称式とは,ざっくり言えば次のようになります。

\(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n\)の対称式とは\(\,\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n\,\)の有理式のうち,
\(\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n\)をどのように入れ替えても変わらない式のことである。

つまり対称式置換によって不変な式と言えます。

例えば\(\,2\,\)変数\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)の式\(\,\,\alpha^{2}+\beta^{2}\,\,\)は対称式であることを確認しましょう。

\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)を入れ替える方法(置換)は

\(\alpha\mapsto\alpha,\quad\beta\mapsto\beta\)とする置換\(\,\,s\)
\(\alpha\mapsto\beta,\quad\beta\mapsto\alpha\)とする置換\(\,\,t\)

の\(\,2\,\)つのみですね。

まず置換\(\,s\,\)を\(\,\,\alpha^{2}+\beta^{2}\,\,\)に行っても,\(\,\,\alpha^{2}+\beta^{2}\,\,\)のままですね。

次に置換\(\,t\,\)を行ってみると

\(\beta^{2}+\alpha^{2}=\alpha^{2}+\beta^{2}\)

と元の式に一致し,置換\(\,t\,\)によっても不変であることが分かります。

こうして\(\alpha^{2}+\beta^{2}\)は対称式であることが確認できました。

対称式はこの他にもたくさんあり
\(2\,\)変数だと\(\quad(\alpha-\beta)^{2}\),
\(3\,\)変数だと\(\quad\alpha^{2}(\beta+\gamma)+\beta^2(\gamma+\alpha)+\gamma^2(\alpha+\beta)\quad\)などが挙げられます。

反対に対称式ではないものとして
\(2\,\)変数だと\(\quad\alpha-\beta\quad\),
\(3\,\)変数だと\(\quad\alpha^{2}(\beta-\gamma)+\beta^2(\gamma-\alpha)+\gamma^2(\alpha-\beta)\quad\)などが挙げられます。

ここで押さえて欲しいことは
前節で登場した基本対称式対称式であることです。

そのため基本対称式の有理式対称式で表せられることは明らかです。

しかしこの逆「対称式基本対称式の有理式で表せられる」も成り立ちます。

このことを表した「対称式の基本定理」を次節で確認していきましょう。

対称式の基本定理

前節で解説した対称式について次の定理が成り立ちます。

対称式の基本定理

対称式基本対称式の有理式で表せられる。

この対称式の基本定理と前節で述べた「基本対称式は対称式で表せられる」ことをまとめると次のようになります。

対称式の基本定理により
解の基本対称式の有理式解の対称式で表され,
逆に解の対称式解の基本対称式の有理式で表される
ことが分かる。

さらに対称式は置換によって不変な式と言えます。

よって前々節の問い\([2]\)さらにを書き直すと

問い\([3]\)
一般方程式の解が
解の置換によって不変な式になるのは何次までか?

となります。

ここも図でまとめると下のようになります。

整理

ひとまずここまでの言い換えを整理しておくと下の図のようになります。

ここまでで結局,上の問\([1]\)が下の問\([3]\)に移り変わったことを念押ししておきます。

問い\([1]\)
一般方程式の解が
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\,\)
を用いて表せるのは何次までか?

問い\([3]\)
一般方程式の解が
解の置換によって不変な式になるのは何次までか?

この問い\([3]\)の観点から方程式を見てみましょう。

二次方程式の解の公式は,なぜ二乗根\(\sqrt{\quad}\)なしで表せられないのか?

ここまで来たらようやく,
二次方程式の解の公式は,なぜ二乗根\(\sqrt{\quad}\)なしで表せられないのかを理解することができます。

一般二次方程式\(\,\,x^{2}+ax+b=0\,\,\)の\(\,2\,\)つの解を\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)とおくことにします。

下の問\([3]\)を考えれば良いのでした。

問い\([3]\)
一般方程式の解が
解の置換によって不変な式になるのは何次までか?

そこで一般二次方程式の解\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)が解の置換によって不変なのかを考えましょう。

対称式の節で述べたように
\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)を入れ替える方法(置換)は

\(\alpha\mapsto\alpha,\quad\beta\mapsto\beta\)とする置換\(\,\,s\)
\(\alpha\mapsto\beta,\quad\beta\mapsto\alpha\)とする置換\(\,\,t\)

の\(\,2\,\)つのみだったことを思い出しましょう。

このうち置換\(\,t\,\)
\(\alpha\)という解を\(\beta\)に,
\(\beta\)という解を\(\alpha\)に変えてしまいます。

つまり一般二次方程式の解\(\,\,\alpha,\beta\,\,\)はどのような置換に対しても不変というわけではないと結論できます。

問\([3]\)の答えが「\(\,2\,\)次未満」であることが分かったので,
同時に問\([1]\)の答えも「\(\,2\,\)次未満」であることが分かります。

そのため一般二次方程式の解は
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\)を用いて書けない
ことが分かりました。

次節では一般一次方程式\(x+a=0\)について考えてみましょう。

一次方程式はなぜ\(\sqrt{\quad}\)を使わずに解けるのか?

一般一次方程式\(\,\,x+a=0\,\,\)の解は明らかに\(\,\,-a\,\,\)で
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\)を用いて書けることが分かります。

これを先ほどの置換の観点から説明していきましょう。

一般一次方程式\(\,\,x+a=0\,\,\)の解を\(\,\,\alpha\,\,\)とおきましょう。

この解\(\,\,\alpha\,\,\)の置換は
そもそも入れ替え先が\(\alpha\)しかないので,
\(\alpha\mapsto\alpha\)の一つのみです。

この置換はもちろん\(\,\,\alpha\mapsto\alpha\,\,\)と解\(\,\,\alpha\,\,\)を不変に保ちます。

置換はこれだけなので,
一般一次方程式の解\(\,\,\alpha\,\,\)はどんな置換によっても不変であることが言えました。

前節の結果と合わせると
問\([3]\)の答えが「\(\,1\,\)次」であることが分かったので,
同時に問\([1]\)の答えも「\(\,1\,\)次」であることが分かります。

そのため一般一次方程式の解は
係数有理数演算\(\, +\, ,-\, ,\times\, ,\div\)を用いて書ける
ことが分かりました。

これは確かに冒頭で確認したことと一致しています。

まとめ

今回の記事では「二次方程式の解の公式は,なぜ二乗根\(\sqrt{\quad}\)なしで表せられないのか?」を中心に
ガロア理論のイメージの導入を解説して参りました。

今回はべき根\(\sqrt[n]{\quad}\)を省きましたが,
次回の記事ではべき根\(\sqrt[n]{\quad}\)を加えて考えていきたいと思います。

※ガロア理論は難しいので,次回の記事の投稿がやや遅れるかもしれません。

またガロア理論を勉強したいと思った方は最後に載せている参考図書のところをご覧になると良いでしょう。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • エミール・アルティン.  “ガロア理論入門” .初版.筑摩書房.2010出版.p160.
    →ガロア理論について,七割教科書,三割読み物のような本です。
  • 結城浩. “数学ガール/ガロア理論” 初版.SBクリエイティブ株式会社.2012出版.454p.
    →ガロア理論についての読み物です。ガロアの論文に沿いつつ,かなり分かりやすいイメージで解説を行っていると思います。
  • 加藤文元. “ガロア理論12講 概念と直感でとらえる現代数学入門” .初版.大日本印刷株式会社.2022出版.239p.
    →これもガロア理論についての読み物です。群論の知識があれば割とスラスラ読めると思います。分かりやすく,ところどころにある演習問題も理解を助けるのに役立ちます。
  • 雪江明彦. “代数学2 環と体とガロア理論”.初版.日本評論社.2010出版.300p.
    →私がガロア理論を厳密に学ぶにあたっては,この本を中心に勉強しました。この本だけではイメージがわきづらいと思いますので,上に挙げたような読み物や他の教科書を参考にすると良いでしょう。

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