【群論】準同型定理とは? なぜ成り立つのか?まで解説

2023.12/01

こんにちは!半沢です!

この記事では群論の最重要定理の一つである準同型定理(homomorphism theorem)について解説したいと思います。

準同型定理の証明と,なぜ準同型定理が成り立つのか?,なぜ準同型定理が大事なのか?,といったイメージまで含めて解説したいと思います。

前回私が書いた【群論】核とは? イメージを中心に分かりやすく解説を読んでいるとイメージが湧きやすくなるので,まだの方はぜひご一読ください。

準同型定理(homomorphism theorem)

主張

まずは準同型定理(homomorphism theorem)の内容を確認していきたいと思います。

準同型定理
準同型\(\phi:G\to H\)が存在したとき,
自然な準同型\(\pi:G\to G/\mathrm{Ker}(\phi)\)が用いられた下図が可換図式となるような
同型\(\psi:G/\mathrm{Ker}(\phi)\to\mathrm{Im}(\phi)\)がただ一つ存在する

要するに準同型\(\phi\)から,同型\(\psi\)を作り出せることを主張しています

初見の方はおそらく完全に理解は出来ていないでしょうが,準同型定理のイメージで詳しく解説するので,証明を飛ばしてそちらを先に読んでいただいても構いません。

それでは証明に移ります。

証明

[証明] 写像\(\psi:G/\mathrm{Ker}(\phi)\to\mathrm{Im}(\phi)\)を\(g\mathrm{Ker}(\phi) \in G/\mathrm{Ker}(\phi)\)に対し,\(\psi(g\mathrm{Ker})(\phi)=\phi(g)\)と定める。

つまり写像\(\psi\)を\(\phi\)を利用することで定義した。

このとき写像\(\psi\)は剰余群\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)上で定義されており,
well-definedであるかは非自明なので確認していこう。

\(g\mathrm{Ker}(\phi)=g’\mathrm{Ker}(\phi)\)とすると,\(g’=ga\)となる元\(a \in \mathrm{Ker}(\phi)\)が存在する。

よって\(\phi(a)=1_H\)より,
\(\psi(g’\mathrm{Ker}(\phi))=\phi(g’)=\phi(g)\phi(a)=\phi(g)=\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))\)

結局\(g\mathrm{Ker}(\phi)=g’\mathrm{Ker}(\phi)\Rightarrow\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))=\psi(g’\mathrm{Ker}(\phi))\)が示されたので,
写像\(\psi\)は確かにwell-definedである

またこの写像\(\psi\)は,その定義より明らかに\(\psi\circ\pi=\phi\)を満たすので,下図は可換図式になる。

次はこの\(\psi\)が同型であることを示そう

[1] 準同型性
\(\phi\)は準同型なので,\(g,g’\in G\)について
\(\psi(gg’\mathrm{Ker}(\phi))=\phi(gg’)=\phi(g)\phi(g’)=\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))\psi(g’\mathrm{Ker}(\phi))\)

よって\(\psi\)は準同型。

[2] 単射性
\(\mathrm{Ker}(\psi)=\{1\}\Leftrightarrow\psiは単射\)という命題を利用して,証明しよう。
※この命題は多くの教科書(雪江群論など)に必ずと言っていいほど,書いてあるので証明は省略。

\(g\mathrm{Ker}(\phi) \in \mathrm{Ker}(\psi)\),
すなわち\(\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))=1_H\)であるとすると,

\(\phi(g)=1_H\)となり,\(g \in \mathrm{Ker}(\phi)\)である。

よって\(g\mathrm{Ker}(\phi)=\mathrm{Ker}(\phi)\)となり,
\(\mathrm{Ker}(\psi)=\{1_{G/\mathrm{Ker}(\phi)}\}\)が示された。

したがって\(\psi\)は単射である。

[3] 全射性
\(\psi\circ\pi=\phi\)より,\(\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))=\phi(g)\)。
この式から
\(\mathrm{Im}(\psi)\subset\mathrm{Im}(\phi)\)と
\(\mathrm{Im}(\psi)\supset\mathrm{Im}(\phi)\)の両方が成り立つことを読み取ることができる。
※右辺は\(\mathrm{Im}(\psi)\)の元,左辺は\(\mathrm{Im}(\phi)\)の元であることに注意すると分かります。

したがって\(\psi\)は全射である。

以上[1],[2],[3]より\(\psi\)は同型である

残りは一意性を示せばよい

同じ条件を満たす写像\(\psi’\)が存在したとする。

\(\psi’\circ\pi=\phi\)より,任意の\(g \in G\)について
\(\psi’\circ\pi(g)=\phi(g)\),すなわち\(\psi'(g\mathrm{Ker}(\phi))=\phi(g)=\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))\)となる。

したがって\(\psi’=\psi\)となるので,一意性は示された

以上より,証明は終了である。

準同型定理のイメージ

準同型定理の主張の確認が済んだところで,この定理が「なぜ成り立つのか?」「なぜ大事なのか?」を解説していきたいと思います。

なぜ成り立つのか?

まず準同型定理がなぜ成り立つのかを解説していきます

ここの解説は筆者のオリジナルなので,ぜひ読んでいってください

準同型定理の要点は,準同型\(\phi:G\to H\)から,
\(\psi\circ\pi=\phi\)となる同型\(\psi:G/\mathrm{Ker}(\phi)\to\mathrm{Im}(\phi)\)を作り出せることでした。

同型とは単射全射準同型の3つがそろっていることなので,
これらがなぜ成り立つのかということが分かればよいですね。

準同型全射については,\(\psi\circ\pi=\phi\)より\(\psi(g\mathrm{Ker}(\phi))=\phi(g)\)であったことを思い出しましょう。

つまり\(\psi\)は準同型\(\phi\)を利用することで,作られているということです。

このことにより写像\(\psi\)は,\(\phi\)の準同型性を利用することで,準同型になっていると考えられます。

全射性についても,\(\phi\)を利用して作ったのだから,\(\phi\)が全射になるような空間\(\mathrm{Im}(\phi)\)を行き先にしてあげているので,\(\psi\)も全射になると考えれます。

では,単射性についてはどうでしょうか?

実は\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)が\(\psi\)が単射になるような空間になっています

詳しく見ていきましょう。

空間\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)は部分群に関する同値関係\(\sim\)による商空間のことでした。

商空間とは「本来同じでないものを,同じとみなす空間」です。
※商空間に慣れていないは分かりずらいと思うので,
今後書く予定の商空間についての記事をお待ちください。

商空間では同値関係\(\sim\)にあるものを同じとみなすので,
同値関係になるような\(G\)の元のペアについて調べましょう。

すると下のようになります。

つまり\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)は\(\phi(g)=\phi(g’)\)となる\(g,g’\)を「同じ」とみなす空間ということです。

\(\phi\)が単射でない,
言い換えると\(\phi(g)=\phi(g’)\)なのに\(g\not=g’\)となるようなものがあったとき,
\(g\not=g’\)を\(g=g’\)となるように変えてしまったような空間が\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)と考えられます。

このような\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)の空間の性質から\(\psi\)が単射になると考えられるわけですね。

    \(\psi\)の同型は次のように成り立つと考えられる。

  • 単射\(\to G/\mathrm{Ker}(\phi)\)
  • 全射\(\to\mathrm{Im}(\phi)\)
  • 準同型\(\to\)準同型\(\phi\)

余談ですが,松坂の「集合・位相入門」で学んだ人は写像\(\phi\)に付随する同値関係と,
部分群\(\mathrm{Ker}(\phi)\)によって定まる同値関係が同じであると言っているだけだと気づいていただけると分かりやすいと思います。

なぜ大事なのか?

次に準同型定理がなぜ大事なのかを解説していきます

単刀直入にいうと,準同型定理が大事なのは,同型を簡単に得られるという点にあります。

群論では,ある群と同型な群を知ることが非常に重要です。

なぜなら,例えば抽象的な群\(G\)があったときに,
\(G\)がなじみの深い\(\mathbb{Z}\)(整数の集合)と同型だと知ってしまえば,
\(G\)上の計算はただ単に整数の足し算に過ぎないと考えられるからです。

このように同型な群を知るということは非常に大切です

しかし普通に同型な群を探そうと思えば,その同型性の証明が単射,全射,準同型の3つを証明する必要があるので非常に面倒です。

そこで準同型定理を使ってしまえば,その証明を省略し同型な群をお手軽に得られてしまう場合があるという利点があります。

このような理由で準同型定理は群論において非常に大事な定理だというわけですね。

まとめ

この記事では準同型定理を,なぜ準同型定理が成り立つのか?,なぜ準同型定理が大事なのか?,といったイメージまで含めて解説してきました。

皆さんにとって腑に落ちるイメージになっていると感じていただけると幸いです。

もし説明がわかりにくいなどご要望がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

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