【群論】核とは? イメージを中心に分かりやすく解説

2023.11/23

こんにちは!半沢です!

今回の記事では群論における核(kernel)について解説したいと思います。

他の記事や教科書では(おそらく)見られない,この記事ならではの核のイメージについて紹介しています。

このイメージができていると,準同型定理や「\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{1_G\}\Leftrightarrow\phiは単射\)」を当たり前に感じることができるようになるので,ぜひ体得していってください。

核(kernel)の定義

核(kernel)とは次のように定義されます。

準同型写像\(\phi:G\to H\)に対し
核\(\mathrm{Ker}(\phi)\)とは,\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{g\in G|\phi(g)=1_H\}\)で定義される\(G\)の部分集合である。

準同型\(\phi\)で写すと単位元となるような,\(G\)の元の集合となります。

定義をしたところで,すぐに核のイメージの解説に入りましょう。

と言いたいところですが,そのために「核は正規部分群である」ということを知っておいた方が良いので,まずはその証明をしたいと思います。

核は正規部分群

それでは「核は正規部分群である」ことの証明をしたいと思います。

[証明] \(\mathrm{Ker}(\phi)\)が正規部分群であるとは,
\(\mathrm{Ker}(\phi)\)が部分群かつ,
任意の\(g\in G,h\in \mathrm{Ker}(\phi)\)に対して\(ghg^{-1}\in\mathrm{Ker}(\phi)\)となることなので,
まずは部分群であることを示します。

部分群であることを示すには次の3点を確認すれば良いのでした。
[1] \(1_{G}\in \mathrm{Ker}(\phi)\)
[2] \(x,y\in\mathrm{Ker}(\phi)\Rightarrow xy\in\mathrm{Ker}(\phi)\)
[3] \(x\in\mathrm{Ker}(\phi)\Rightarrow x^{-1}\in\mathrm{Ker}(\phi)\)

[1]について \(\phi\)は準同型なので,\(\phi(1_G)=1_H\)より\(1_G\in\mathrm{Ker}(\phi)\)

[2]について \(x,y\in\mathrm{Ker}(\phi)\)とすると,\(\phi(x)=\phi(y)=1_H\)より
\(\phi(xy)=\phi(x)\phi(y)=1_H\cdot 1_H=1_H\)  よって\(xy\in\mathrm{Ker}(\phi)\)

[3]について \(x\in\mathrm{Ker}(\phi)\)とすると,\(\phi(x)=1_H\)より
\(\phi(x^{-1})=\phi(x)^{-1}=1_{H}^{-1}=1_H\)  よって\(x^{-1}\in\mathrm{Ker}(\phi)\)

次に正規性を示しましょう。

そのために,任意の\(g\in G,h\in \mathrm{Ker}(\phi)\)をとりあえず取ってきます。

このとき\(\phi(h)=1_H\)なので,
\(\phi(ghg^{-1})=\phi(g)\phi(h)\phi(g)^{-1}=\phi(g)\cdot 1_H\cdot\phi(g)^{-1}=\phi(g)\phi(g)^{-1}=1_H\)
となります。

つまり\(\phi(ghg^{-1})=1_H\)が示されたので,\(ghg^{-1}\in \mathrm{Ker}(\phi)\)となります。

\(g,h\)は任意だったので,これは\(\mathrm{Ker}(\phi)\)が正規部分群であることを表し,証明終了です。

核のイメージ

準備が整ったところで,核のイメージについて解説していきたいと思います。

核の位数は準同型写像の「つぶし度」を表す

核の位数は準同型写像の「つぶし度を表します。

「つぶし度」はここでの非公式な用語ですので,改めて定義したいと思います。

つぶし度\(C\)を,準同型\(\phi:G\to H\)とある\(g\in G\)に対し
\(C=|\{g’\in G|\phi(g’)=\phi(g)\}|\)と定める。
※\(|G|\)は群\(G\)の位数を表します。

写像\(\phi\)での行き先がある元\(g\)と一致しているような\(G\)の元の数ということです。

もちろん\(\phi(g)=\phi(g)\)なので,\(g\)自身もカウントされ,必ず\(C\geq 1\)となります。

\(C=3\)のときは,\(g\)に対して\(g,b,c\in G\)があって,\(\phi(g)=\phi(b)=\phi(c)=\phi(g)\)となるということです。

本来異なるはずの元\(g,b,c\)を\(\phi\)で写すと,一つのもの\(\phi(g)\)に「つぶれている」というわけです。

このときなんと\(C=|\mathrm{Ker}(\phi)|\)が成り立ちます

定義をパッと見たとき,元\(g\)の取り方によって\(C\)は異なる可能性があるので,こんなこと成り立たないのではないのかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが落ち着いて考えれば分かります。

まず\(C\)の定義で用いた集合\(\{g’\in G|\phi(g’)=\phi(g)\}\)を考えてみましょう。

この中の条件\(\phi(g’)=\phi(g)\)は次のように変形できます。

つまり先ほどの集合は,剰余群\(G/\mathrm{Ker}(\phi)\)の元\(g\mathrm{Ker}(\phi)\)に変わりないということです。

ここで部分群についてはその剰余類について\(|g\mathrm{Ker}(\phi)|=|\mathrm{Ker}(\phi)|\)となるので
(今後作成予定のラグランジュの定理の記事で証明できればいいと思っています),
結局\(C=|\mathrm{Ker}(\phi)|\)となることが示されます。

ここまでの話をまとめると,\(|\mathrm{Ker}(\phi)|\)は「\(\phi\)によってどのくらいつぶされているのかを表すということが分かります。

  • \(|\mathrm{Ker}(\phi)|\)は準同型\(\phi\)の「つぶし度」を表す。

核の元は「つぶされているものは何か」を教える

それでは核の元についてはどうなるのでしょうか?

実は核の元つぶされているものは何か」を教えてくれます

例えば\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{1_G,a,b\}\)だったとしましょう。
※\(\mathrm{Ker}\)の定義より必ず群\(G\)の単位元\(1_G\)は含まれる。

このとき\(g\in G\)とつぶれ先が一緒の元\(g’\in G\)(つまり\(\phi(g)=\phi(g’)\))はどのような元なのでしょうか?

なんと,そのような元は\(g\)に右から\(\mathrm{Ker}(\phi)\)の元をかけたもの,
つまり\(g\mathrm{Ker}(\phi)\)の元\(g(=g1_G),ga,gb\)の3つの元のみということが分かります。

\(g\)とつぶれ先が一緒のものを知りたければ,\(\mathrm{Ker}(\phi)\)の元を\(g\)に右からかければ良いだけということですね。

実際に確かめてみましょう。

\(g\)については明らかなので,\(ga\)について確認してみましょう。

\(a\in\mathrm{Ker}(\phi)\)より,\(\phi(a)=1_{H}\)に注意すると\(\phi(ga)=\phi(g)\phi(a)=\phi(g)1_H=\phi(g)\)となることが分かります(\(gb\)についても同様です)。

結局\(g\)と\(g,ga,gb\)のつぶれ先が一緒になることが分かりました。

しかし,つぶれ先が一緒になる元はこの3つだけなんでしょうか?

そのことを考えるためにつぶれ先が,ある元\(g’\in G\)について一致した(\(\phi(g’)=\phi(g)\))としましょう。

すると

となり,\(g’\in g\mathrm{Ker}(\phi)\)となることが分かります。

\(g\mathrm{Ker}(\phi)=\{g,ga,gb\}\)なので,\(g’\)は\(g,ga,gb\)のどれかに一致しなければなりません。

よって\(g\)とつぶれ先が一緒の元は\(g,ga,gb\)の3つに限るということが言えました。

だから核の元を利用することで\(\phi(g)\)へ「つぶされているものは何か」を知ることができるというわけです。

  • \(\mathrm{Ker}(\phi)\)の元は\(\phi(g)\)へ「つぶされているもの」を教える。

ふと,別の元\(1_{G}g,ag,bg\)(\(g\)のから\(\mathrm{Ker}(\phi)\)の元をかけたもの)もつぶれ先が一緒になるのではないのか?と疑問を持った方向けに補足で説明します。

核は正規部分群なので,\(\mathrm{Ker}(\phi)g=g\mathrm{Ker}(\phi)\)より,
\(\{1_{G}g,ag,bg\}=\{g1_{G},ga,gb\}\)となります。

つまり\(1_{G}g,ag,bg\)は確かにつぶれ先が一緒になるのですが,結局\(1_{G}g,ag,bg\)のどれかと同じになってしまうので,その3つに限ると言っても良いわけです。

イメージから見た定理

さて,前の節で\(\mathrm{Ker}\)のイメージができたところで,定理を見てみると非常にスッキリします。

具体例として次の定理を考えましょう。

\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{1_G\}\Leftrightarrow\phiは単射\)

この定理の証明は多くの教科書(雪江群論など)に載っているので割愛いたしますが,証明をせずともイメージで理解することができます。

なぜならイメージを通して考えると,\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{1_G\}\)ということは,
「\(g\in G\)とつぶれ先が一緒になるのは1つ,つまり\(g\)だけだよ」と言っていることに過ぎない
からです。

これは「\(\phi\)の行き先が\(\phi(g)\)一緒になるのは\(g\)だけ」と言っているのと同じで単射の定義そのものです

だから同値性が成立するというわけです。

他にもこのイメージを持っていると,群論で最も大事な定理の一つである準同型定理も当たり前に感じることができます

準同型定理は非常に大事ですので,そのことも含めて記事を投稿しようと思っているのでご期待ください。

まとめ

群論における核(kernel)を,イメージを中心に解説して参りました。

核のイメージを持ち,\(\mathrm{Ker}(\phi)=\{1\}\Leftrightarrow\phiは単射\)が当たり前に感じることができるようになったのなら,筆者としては大変嬉しく思います。

大学数学の記事はこれが初投稿なので,わかりづらかった可能性もありますが,
これからどしどし投稿していくので,温かい目で見守ってください。

もし説明がわかりにくいなどご要望がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

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