【数論】シュトラスマンの定理とは? 主張・応用例2つ・初等的証明まで解説

2025.02/26

こんにちは!半沢です!

今回の記事では数論におけるシュトラスマンの定理(Strassmann’s theorem)について解説します。

シュトラスマンの定理は\(\,p\,\)進体のべき級数の零点の有限性を示すものです。

今回の記事ではその興味深い応用例として,
「べき級数の周期関数は定数関数のみ」,「べき級数の零点集合はたかだか可算」などを紹介したいと思います。

ぜひ読んでいってください。

シュトラスマンの定理(Strassmann’s theorem)

主張

シュトラスマンの定理(Strassmann’s theorem)
\(f(X)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_nX^n\,\)を\(\,0\,\)でない\(\,\mathbb{Q}_p\,\)係数のべき級数で\(\,\mathbb{Z}_p\,\)において収束するものとする。
まずこのとき次の条件\(\,(\ast)\,\)を満たすような整数\(\,N\geq 0\,\)が一意に定まる。
条件\(\,(\ast)\,\)\(|a_N|_p=\displaystyle\max_n|a_n|_p\quad\)かつ\(\quad|a_n|_p\lt |a_N|_p\,\,(n\gt N)\)
そしてこの\(\,N\,\)について関数\(\,f:\mathbb{Z}_p\to\mathbb{Q}_p\,\)は重複を含めた零点を高々\(\,N\,\)点しか持たない。

上の形は\(\,\mathbb{Z}_p\,\)上で収束するべき級数について述べていますが,

整数\(\,m\,\)について\(\,p^m\mathbb{Z}_p\,\)上収束するべき級数\(\,f(X)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_nX^n\,\)についても
\(\,\mathbb{Z}_p\)で収束するようにスケーリングしたべき級数\(\,g(X)=f(p^mX)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}a_np^{mn}X^n\,\)にシュトラスマンの定理を適用できます。

そのため次の系が得られます。


\(f(X)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_nX^n\,\)を\(\,0\,\)でない\(\,\mathbb{Q}_p\,\)係数のべき級数で\(\,p^m\mathbb{Z}_p\,\)において収束するものとする。
まずこのとき次の条件\(\,(\ast)\,\)を満たすような整数\(\,N\geq 0\,\)が一意に定まる。
条件\(\,(\ast)\,\)\(|a_Np^{mN}|_p=\displaystyle\max_n|a_np^{nm}|_p\quad\)かつ\(\quad|a_np^{mn}|_p\lt |a_Np^{mN}|_p\,\,(n\gt N)\)
そしてこの\(\,N\,\)について関数\(\,f:p^{m}\mathbb{Z}_p\to\mathbb{Q}_p\,\)は重複を含めた零点を高々\(\,N\,\)点しか持たない。

次節次々節ではではこのシュトラスマンの定理の面白い応用例を見ていきましょう。

証明はこちらの節で解説しています。

応用例1:べき級数の周期関数は定数関数のみ

命題1
べき級数\(\,f(X)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_nX^n\,\)が\(\,p^m\mathbb{Z}_p\,\)において収束し,関数\(\,f:p^m\mathbb{Z}_p\to \mathbb{Q}_p\,\)を定めていたとする。
このとき\(\,f\,\)は周期関数,すなわち次の条件を満たすとする。

\(\exists\pi(\not=0)\in p^{m}\mathbb{Z}_p,\,\,f(x+\pi)=f(x)\,\,(\forall x\in p^m\mathbb{Z}_p)\)
このとき\(\,f(X)\,\)は定数となる。

\(p\,\)進体ではべき級数による周期関数が定数関数以外存在しないということですね。

例えば\(\,\sin X=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n\dfrac{X^{2n+1}}{(2n+1)!},\,\,\cos X=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n\dfrac{X^{2n}}{(2n)!}\,\)は

実数上では周期関数になりますが,\(\,p\,\)進体上では周期関数にならないということですね。

それでは証明です。

\(\,f\,\)が周期的であったとして,べき級数\(\,h(X)=f(X)-f(0)\,\)を考えましょう。

任意の\(\,n\in\mathbb{Z}\,\)について\(\,|n\pi|_p\leq |\pi| \leq p^{-m}\,\)より
\(n\pi\in p^m\mathbb{Z}_p\)を\(\,h(X)\,\)に代入することができて,周期性から

\(h(n\pi)=f(n\pi)-f(0)=0\)

となります。

つまり\(\,h(X)\,\)は\(\,p^m\mathbb{Z}_p\,\)上に無限個の零点を持ちます。

シュトラスマンの定理よりこれは\(\,h(X)=0\,\),すなわち\(\,f(X)=f(0)\,\)を意味するので題意は示されました。\(\quad\square\)

応用例2:べき級数の零点集合はたかだか可算

命題2
\(\mathbb{Q}_p\,\)全体で収束するべき級数\(\,f(X)=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_nX^n\,\)から定まる関数\(\,f:\mathbb{Q}_p\to\mathbb{Q}_p\)の
零点集合\(\{\alpha\in\mathbb{Q}_p\,|\,f(\alpha)=0\}\)はたかだか可算である。

さらにもし無限なら零点の数列\(\,\alpha_n\,\)で\(\,|\alpha_n|_p\to \infty\,\)となるものが存在する。

複素数体\(\,\mathbb{C}\,\)で正則関数の零点集合はたかだか可算となることに似ていますね。

証明は簡単で,シュトラスマンの定理より各\(\,m\in\mathbb{Z}_p\,\)に対して\(\,p^{m}\mathbb{Z}_p\,\)内の\(\,f\,\)の零点は有限個である。

全ての\(\,m\,\)について,それらの集合を合併した集合はもちろん高々可算で零点集合に一致する。

またこのとき零点集合が無限なら,任意の\(\,n\in \mathbb{Z}_p\,\)に対して\(\,\alpha_n\not\in p^n\mathbb{Z}_p\,\)となる\(\,\alpha_n\,\)が存在する。

※そうでないとシュトラスマンの定理より零点集合が有限になってしまうため。

この\(\,\alpha_n\,\)は明らかに\(\,|\alpha_n|_p\to \infty\,\)となるので,題意は示された。\(\quad\square\)

証明

この節ではシュトラスマンの定理の証明を行っていきましょう。

高等なワイエルシュトラスの準備定理を用いて証明する方法もあるようですが,ここではできるだけ初等的な証明を紹介します。

まず\(\,N\,\)の一意性と存在性を証明しましょう。

存在性についてですが,
\(f(X)\,\)は\(\,1\in\mathbb{Z}_p\,\)で収束します。すなわち\(\,\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n\,\)が収束します。

これは超距離空間では\(\,\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=0\,\)を意味します。

今\(\,f\,\)は\(\,0\,\)ではないので,ある\(\,m\geq 0\,\)について\(\,|a_m|_p>0\,\)となります。

そこで\(\,\varepsilon=|a_m|_p\,\)とすることで,ある自然数\(\,k\,\)が存在して\(\,n\geq k\,\)において

\(|a_n|_p\lt |a_m|_p\,\)が成り立ちます。

つまり\(\,\displaystyle\max_{n}|a_n|_p\,\)が存在して,
その値に一致するものは\(\,|a_0|_p,|a_1|_p,\ldots,|a_{k-1}|_p\,\)の中にしかないということが分かります。

そこで\(\,|a_0|_p,|a_1|_p,\ldots,|a_{k-1}|_p\,\)の中で値が\(\,\displaystyle\max_{n}|a_n|_p\,\)に一致するもののうち,
最も番号が大きい\(\,|a_N|_p\,\)を取ってきましょう。

もちろん番号の取り方から\(\,N\lt n \leq k-1\,\)において\(\,|a_n|_p\lt |a_N|_p\,\)。

また\(\,n\geq k\,\)においても最大性から\(\,|a_n|_p\lt |a_m|_p\leq |a_N|_p\,\)。

よって確かに\(|a_N|_p=\displaystyle\max_n|a_n|_p\quad\)かつ\(\quad|a_n|_p\lt |a_N|_p\,\,(n\gt N)\)を満たすような整数\(\,N\geq 0\,\)の存在性が示されました。

一意性については同様の条件を満たす整数\(\,N’\,\)が存在したとすると,

\(|a_N|_p=|a_{N’}|_p\,\)であり,\(\,|a_n|_p\lt |a_N|_p\,\,(n\gt N)\,\)であることから\(\,N’\leq N\,\)が分かる。

逆向きの不等号も\(\,|a_n|_p\lt |a_{N’}|_p\,\,(n\gt N’)\,\)から分かるので\(\,N=N’\,\)となり一意性は示された。

さてここからは零点の数がたかだか\(\,N\,\)であることを
\(N\,\)に関する数学的帰納法で証明していきましょう。

\([1]\,\,N=0\,\)のとき このときは零点が存在しないことを示せばよいです。

背理法により示すため\(\,\exists x\in \mathbb{Z}_p,\,\,f(x)=0\,\)と仮定すると

\(0=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots\)

となるので,

となります。しかしこれは,\(\,N=0\,\)より\(\,|a_n|_p\lt|a_0|_p\,\,(n\gt 1)\,\)であることに矛盾します。

よって\(\,N=0\,\)のときは示されました。

\(\,[2]\,\,N=k\,\,(k\in\mathbb{N}\cup\{0\})\,\)のとき成り立つと仮定して,\(\,N=k+1\,\)のときも成り立つことを示していきましょう。

証明のために条件\(\,(\ast)\,\)を満たす整数が\(\,k+1\,\)であるようなべき級数\(\,f(X)\,\)を考えましょう。

関数\(\,f\,\)が\(\,\mathbb{Z}_p\,\)に零点を持たない場合,定理が成り立つのは明らかなので,
関数\(\,f\,\)は少なくとも一つ零点\(\,\alpha\in\mathbb{Z}_p\,\)を持つとしましょう。

このとき\(\,\forall x\in\mathbb{Z}_p\,\)において次のように因数分解できます。

ここで※1より二重級数の順序交換が保証されるので,さらに式変形できて

となります。

ただし

とおいています。

このとき\(\,g(X)\,\)は定理の前提条件を満たしていることを確認していきましょう。

\(g(X)=0\,\)だとすると,
\(f(x)=(x-\alpha)g(x)=0\quad(\forall x\in \mathbb{Z}_p)\,\)で,べき級数の一意性からこれは\(\,f(X)=0\,\)を意味し仮定に矛盾します。

よって確かに\(\,g(X)\not=0\,\)です。

また上の二重級数の順序交換の時点で\(\,g(X)\,\)にあたる部分が\(\,\mathbb{Z}_p\,\)において収束することも言えています。

以上より\(\,g(X)\,\)は定理の前提条件を満たしていることが確認できました。

続いてこの\(\,g(X)\,\)から定まる条件\(\,(\ast)\,\)を満たすような整数が\(\,k\,\)であることを確認しましょう。

まず\(\,b_j\,\)の定義と\(\,|\alpha|_p\leq1\,\)より

\(\displaystyle |b_j|_p\leq \max_{i\geq 0}|a_{j+1+i}|_p\leq |a_{k+1}|_p\)

が成り立ちます。

また

\(\displaystyle |b_{k}-a_{k+1}|_p=\Biggl|\sum_{i=1}^{\infty}a_{k+1+i}\,\alpha^i\Biggr|_p\leq \max_{i\geq 1}|a_{k+1+i}|_p\lt |a_{k+1}|_p\)

となります。

この二つ目の不等式を幾何的に捉えれば下図のように\(\,b_k,a_{k+1}\)間の辺が最短であることを意味するので,
超距離空間の性質から\(\,|b_k|_p=|a_{k+1}|_p\,\)となります。

一つ目の不等式と合わせて

\(|b_k|_p=|a_{k+1}|_p=\displaystyle\max_j|b_j|_p\)

が言えました。

また\(\,j\gt k\,\)のとき

\(\displaystyle |b_j|_p\leq \max_{i\geq 0}|a_{j+1+i}|_p\leq \max_{j\gt k+1}|a_{j}|_p\lt |a_{k+1}|_p=|b_k|_p\)

より,確かに\(\,|b_j|_p\lt |b_{k}|_p\,\,(j\gt k)\,\)が成り立ちます。

以上より\(\,g(X)\,\)から定まる条件\(\,(\ast)\,\)を満たすような整数が\(\,k\,\)であることが示されました。

故に関数\(\,g\,\)は帰納法の仮定を適用することで\(\,\mathbb{Z}_p\,\)に重複を含めた零点を高々\(\,k\,\)点しか持たないことが言えます。

よって\(\,f(X)=(x-\alpha)g(X)\,\)より,
関数\(\,f\,\),つまり\(\,N=k+1\,\)の場合についても\(\,\mathbb{Z}_p\,\)に重複を含めた零点を高々\(\,k+1\,\)点しか持たないことが言えました。

\([1],[2]\,\)より題意は示されました。\(\quad\square\)

※1 詳しくは参考図書\([1]\)をご覧になって欲しいのですが,

二重級数\(\,\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\sum_{j=0}^{\infty}c_{nj}\,\)の順序交換が可能であることを確認するためには次の二つの条件を確認すれば十分です。

\((\,\mathrm{i}\,)\,\) 二重数列\(\,c_{nj}\,\)は各\(\,n\,\)において\(\,\displaystyle\lim_{j\to\infty} c_{nj}=0\,\)となる。

\((\,\mathrm{ii}\,)\,\) \(\,j\,\)に関して一様に\(\,\displaystyle\lim_{n\to\infty} c_{nj}=0\,\)

今回の場合

\(\,c_{nj}=\begin{cases} a_nx^j\alpha^{n-1-j}& (n\gt j) \\ 0 & (n\leq j)\end{cases} \,\)

です。

\(n\,\)を固定したときは\(\,n\leq j\,\)となる十分大きな\(\,j\,\)では\(\,c_{nj}=0\,\)となるので,
明らかに\(\,\displaystyle\lim_{j\to\infty} c_{nj}=0\,\)で\(\,(\,\mathrm{i}\,)\,\)は成り立ちます。

また\(\alpha,x\in \mathbb{Z}_p\,\)より\(\,|c_n|_p\leq |a_n|_p\,\)で,

ここで\(f(X)=\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} a_nX^{n}\,\)は\(\,1\,\)において収束することから\(\,\displaystyle\lim_{n\to\infty} a_n=0\,\)に注意すると

はさみうちの原理から\(\,c_{nj}\,\)は\(\,j\,\)に関して一様に\(\,\displaystyle\lim_{n\to\infty} c_{nj}=0\,\)で,\(\,(\,\mathrm{ii}\,)\,\)を示せます。

したがって二つの条件が示されたので,二重級数の順序交換は大丈夫というわけです。

まとめ

今回の記事ではシュトラスマンの定理(Strassmann’s theorem)を解説いたしました。

個人的にはその応用の「\(\,p\,\)進体上のべき級数の周期関数で定数関数でないものは存在しない」ことがかなり面白いと思っています。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) Fernando Q. Gouvêa. “p-adic Numbers”.Third Edition.Springer Cham.2020.p.113,137-142

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