【群論】同型定理とは? 群論でよく使われる同型定理を主張・イメージ・証明を中心に解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では群論における同型定理(isomorphism theorem)について解説したいと思います。
同型定理は群論において,証明の際に地味に使います
(例えば可解群~性質・具体例~”の証明にて同型定理を\(3\)回も使っています)。
そんな地味に大事な同型定理を,主張,イメージ,証明を中心に解説をしたいと思います。
ぜひ読んでいってください。
同型定理(isomorphism theorem)
一般的には同型定理は三つあるので,その三つの主張とイメージを順番に解説していきます。
証明はこの記事の最後にまとめて載せてあります。
第一同型定理
第一同型定理
群\(G,G’\)について,全射準同型\(\phi:G\to G’\)と\(G’\)の正規部分群\(N’\)が存在したとする。
このとき\(N=\phi^{-1}(N’)\)おくと,
\(N\vartriangleleft G\)かつ\(G/N\cong G’/N’\)
この定理のイメージは下のようになるでしょう。
\(G\)が\(G’\)の情報を持っている(\(\phi\)は全射準同型)なら
\(G’\)の剰余群は\(G\)の剰余群とみなせる。
※実際は準同型定理を第一同型定理と呼ぶことが多いです。
しかしこのサイトでは準同型定理を既に解説しており,同型定理の解説で”第一”を省くのが嫌だったので,今回の表式を採用いたしました。
今回の第一同型定理の表式は参考図書\([1]\)のものを採用していますが,
私の知る限りでは重要度の低い,かなりレアな表式です。
そのため,このサイトの第一同型定理に関しては「こんなものもあるのだなぁ」くらいに思っていただけると幸いです。
第二,第三については最もメジャーなものを載せているので,そちらは心配しないでください。
第二同型定理
第二同型定理
\(H,N\)は群\(G\)の部分群かつ,\(N\vartriangleleft G\)とする。
このとき\(HN\)は\(G\)の部分群かつ,\(HN=NH\)となる。
さらに\(HN/N\cong H/H\cap N\)となる。
第二同型定理のイメージは以下のようになるでしょう。
\(HN/N\)の元は\(h\in H,n\in N\)を用いて\(hnN\)と書けます。
\(hnN=hN\)なので,実質\(HN/N\)は\(H/N\)とみなせそうです。
しかし\(H/N\)を定義するには,\(H \supset N\)である必要があります。
一般にはもちろん\(H \not\supset N\)なので,代わりに\(H\)に含まれていて,\(N\)に最も近いような部分群\(H\cap N\)を用いて
\(HN/N\cong H/H\cap N\)となるイメージです。
\(HN/N\)は\(H/H\cap N\)とみなせる。
ここからはかなり余談ですが,第二同型定理を模式図で表すこともでき(Wikipediaに載ってます),
その模式図はガロアの推進定理と若干の関連があります。
興味のある方がいたら,詳しく書きたいと思います。
第三同型定理
第三同型定理
\(N\supset M\)の両方を\(G\)の正規部分群とすると,
\(G/M\vartriangleright N/M\)で,\((G/M)/(N/M)\cong G/N\)となる。
第三同型定理のイメージは以下のようになるでしょう。
\(G/M\)は\(N/M\)で”割る”ことができ,その結果\(G/N\)となる。
第三同型定理は個人的には割と使う印象ですので,上のイメージを大事にしましょう。
まとめ
今回の記事では同型定理を解説いたしました。
冒頭でも述べたように,証明で地味に用いるので,イメージを持っておくと群論を学ぶ上で有利です。
最後に厳密な証明を載せているので,必要に応じてご参照ください。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考図書
- \([1]\) 近藤武.”岩波講座 基礎数学4 群論 \(\mathrm{I}\)”.岩波書店出版.1976出版.p.19-21
- \([2]\) “同型定理 – Wikipedia”.Wikipedia.2022-10-29更新.https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E5%9E%8B%E5%AE%9A%E7%90%86.2024-04-12参照
- \([3]\) 桂利行.”代数学 \(\mathrm{I}\) 群と環”.初版.東京大学出版会.2004出版.p.26-27
証明
それでは証明に参りましょう。
準同型定理を多用するので,理解が不十分だと感じる方は私の記事を参照するとよいでしょう。
第一同型定理
群\(G,G’\)について,全射準同型\(\phi:G\to G’\)と\(G’\)の正規部分群\(N’\)が存在したとする。
このとき\(N=\phi^{-1}(N’)\)おくと,
\(N\vartriangleleft G\)かつ\(G/N\cong G’/N’\)
自然な準同型\(\pi’:G’\to G’/N’\)は全射なので,
\(\pi’\circ \phi:G\to G’/N’\)は全射準同型。
この合成写像\(\pi’\circ \phi\)について準同型定理を用いて\(G/\mathrm{Ker}(\pi’\circ \phi)\cong G’/N’\)。
ここで
よって\(N=\mathrm{Ker}(\pi’\circ \phi)\)より,
\(N\vartriangleleft G\)かつ\(G/\mathrm{Ker}(\pi’\circ \phi)=G/N \cong G’/N’\)となる。
第二同型定理
\(H,N\)は群\(G\)の部分群かつ,\(N\vartriangleleft G\)とする。
このとき\(HN\)は\(G\)の部分群かつ,\(HN=NH\)となる。
さらに\(HN/N\cong H/H\cap N\)となる。
まず\(HN\)が部分群であることを示す。以下の二点が満たされることを確認すればよい。
※部分群の記事で改めて,部分群の判定について解説したいと思います。
\([1]\)\(HN \not= \emptyset\)
\([2]\)\(h_1n_1,h_2n_2 \in HN \Rightarrow (h_1n_1)^{-1}h_2n_2\in HN\)
\([1]\)について 明らかに\(1_G \in HN\)であるので,満たされる。
\([2]\)について
\((h_1n_1)^{-1}h_2n_2=n_{1}^{-1}h_{1}^{-1}h_2n_2=(h_1^{-1}h_2)[(h_1^{-1}h_2)^{-1}n_{1}^{-1}(h_1^{-1}h_2)]n_2\)
\(N\vartriangleleft G\)より,\((h_1^{-1}h_2)^{-1}n_{1}^{-1}(h_1^{-1}h_2) \in N\)であるので,
\((h_1n_1)^{-1}h_2n_2 \in HN\)となり,満たされる。
以上より\(HN\)が部分群であることが示された。
また\(N\vartriangleleft G\)より\(h \in H\)について\(hN=Nh\)であるので,\(HN=NH\)となることは明らか。
よって後は\(HN/N\cong H/H\cap N\)を示せば良い。
写像\(\phi:H\to HN/N\)を\(\phi(h)=hN\;(\forall h\in H)\)と定義する。
明らかに\(\phi\)は全射準同型なので,準同型定理より\(H/\mathrm{Ker}\phi\cong HN/N\)
ここで
したがって\(\mathrm{Ker}\phi=H\cap N\)より,
\(H/\mathrm{Ker}\phi=\textcolor{1d7bba}{H/H\cap N \cong HN/N}\)となる。
第三同型定理
\(N\supset M\)の両方を\(G\)の正規部分群とすると,
\(G/M\vartriangleright N/M\)で,\((G/M)/(N/M)\cong G/N\)となる。
写像\(\phi:G/M\to G/N\)を\(\phi(gM)=gN\;(\forall gM\in G/M)\)として定める。
この写像のwell-defined性を確認する。
\(gM=g’M (g,g’\in G)\)とすると,\(N\supset M\)と合わせて\(g=g’n\)となる\(n\in N\)が存在する。
\(\phi(gM)=gN=g’nN=g’N=\phi(g’M)\)より,\(\phi(gM)=\phi(g’M)\)
よってwell-defined性は示された。
写像\(\phi\)が全射準同型であることは明らかである。
故に準同型定理より\((G/M)/\mathrm{Ker}\phi\cong G/N\)となる。
ここで
よって\(N/M=\mathrm{Ker}(\phi)\)より,
\(N/M\vartriangleleft G/M\)かつ\((G/M)/\mathrm{Ker}\phi=(G/M)/(N/M)\cong G/N\)となる。