【群論】交換子群とは? 定義・性質・具体例・応用まですべて解説

2024.01/20

こんにちは!半沢です!

今回の記事では交換子群(commutator subgroup)について解説したいと思います。

名前の通り,交換子群は剰余群の交換(可換)性を司どっています

そのため,応用として「可解群であることの必要十分条件」や「表現論における11次表現」に関係する重要なものです。

これらの交換子群のポイントを確認していきましょう。

ぜひ読んでいってください。

交換子群(commutator subgroup)

そもそも交換子とは?

まずは交換子(commutator)について確認しましょう。

GGの2つの元g,h\,g,h\,交換子

[g,h]=ghg1h1[g,h]=ghg^{-1}h^{-1}で定義する。

交換子と言われる理由は,次のようにgghhの交換(可換)性の情報を持つからです

[g,h]=1Ggh=hg[g,h]=1_{G}\Leftrightarrow gh=hg

証明はghg1h1=1Gghg^{-1}h^{-1}=1_{G}の両辺に右からhghgを掛ける(逆はその逆操作を行う)だけです。

その他,g,kGg,k \in Gについて,ggkkについての共役をgk=kgk1g^{k}=kgk^{-1}と定義すると,
下のような計算法則が成り立ちます。

  1. [g,h]=[h,g]1[g,h]=[h,g]^{-1}
  2. [g,h]k=[gk,hk][g,h]^{k}=[g^{k},h^{k}]
  3. [gh,k]=[h,k]g[g,k][gh,k]=[h,k]^{g}[g,k]
  4. [k,gh]=[k,g][k,h]g[k,gh]=[k,g][k,h]^{g}

証明はただの計算ですので,省略させてください。

※教科書によっては逆の[g,h]=g1h1gh[g,h]’=g^{-1}h^{-1}ghで定義されることもあります。

上で定義したものと[g,h]=[g,h]1[g,h]=[g,h]’^{-1}の関係があり,先程の計算法則はやや異なった表式になります。

しかし,この違いが決定的になることは(私の知る限り)ないです。

実際今回のテーマである交換子群はその定義を確認してもらえれば,交換子の定義にはよらないことが分かります。

定義

それでは交換子群(commutator subgroup)の定義を確認しましょう。

定義
[g,h]g,hG⟨[g,h]|g,h \in G⟩GG交換子群と言い,

[G,G][G,G]D(G)D(G)で表す。

言葉で言い換えれば次のようになります。

GG交換子群とは,GGの中のあらゆる交換子で生成される群

性質

交換子群の性質として次のことが知られています。

性質[1][1]
GD(G)G\vartriangleright D(G)で,G/D(G)G/D(G)は可換群である。

性質[2][2]
GNG\vartriangleright NかつG/NG/Nは可換群    \,\,\Leftrightarrow\,\,ND(G)N\supseteq D(G)

特に性質[2][2]は,交換子群が剰余群が可解群となる部分群の中で最小であることを表し,
かなり応用の利くものです

またG/D(G)G/D(G)GGをできるだけ崩さずに可換にしたものと考えられるため,
これをGG可換化と呼び,Gab=G/D(G)G^{ab}=G/D(G)と表します。

abは可換化(abelianization)から来ています。

これらの性質は証明をせずともかなり直感的に理解することができます。

なぜなら剰余群G/D(G)G/D(G)は言わば,D(G)D(G)元が単位元になっているような空間です。

もちろんGGの任意の交換子はD(G)D(G)の元ですので,単位元になってしまいます。

そもそも交換子とは?で確認したように[g,h]=1Ggh=hg[g,h]=1_{G}\Leftrightarrow gh=hgですので,性質[1],[2][1],[2]が成り立つわけです。

性質[1][1]では「[g,h]=1Ggh=hg[g,h]=1_{G}\Leftrightarrow gh=hg」の「\Rightarrow」を,性質[2][2]ではその同値性「\Leftrightarrow」の影響が出ているのですね。

応用についてはこちらの節に,証明はこちらの節に載せていますので確認していただけると嬉しいです。

具体例

まずは一番基本的な加法群Z\mathbb{Z}の交換子群D(Z)D(\mathbb{Z})について考えましょう。

任意のn,mZn,m \in \mathbb{Z}について
[n,m]=n+m+(n)+(m)=0[n,m]=n+m+(-n)+(-m)=0ですので,Z\mathbb{Z}の交換子は全て00(単位元)となってしまいます。

よってD(Z)={0}D(\mathbb{Z})=\{0\}です。

同様にして可換群AAについてD(A)={1A}D(A)=\{1_{A}\}であることが分かります。

n3n\geq 3のとき,非可換群となるSn\mathfrak{S}_nについてはどうでしょうか?

実はD(Sn)=AnD(\mathfrak{S}_n)=\mathfrak{A}_nとなります。

証明は長いため参考図書[1]に任せますが,n5n\geq 5の時,交代群An\mathfrak{A}_nは非可換単純群であるという性質からD(Sn)=An(n5)D(\mathfrak{S}_n)=\mathfrak{A}_n\,(n\geq 5)となることを導けます。

そして残りのn<5n\lt 5のときも,手計算によりD(Sn)=AnD(\mathfrak{S}_n)=\mathfrak{A}_nとなることが分かるからです。

応用

ここでは交換子群が今後どのように役に立つのかを解説していきたいと思います。

まず【群論】可解群とは? なぜ方程式の可解性と関係するのか?まで解説で解説したように,
可解群の判定に用いることができます

また有限群の表現論においては,性質[2][2]が成り立つことから
GG11次表現と可換化Gab=G/D(G)G^{ab}=G/D(G)の表現を同一視できるという,
かなり便利な定理を導けます。

まとめ

この記事では交換子群について解説してきました。

応用で話したように有限群の表現論において,可換化GabG^{ab}はかなり重要な群になりますので,興味のある方は絶対に押さえておきましょう。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

最後に参考図書性質[1],[2][1],[2]の証明も載せてあるので,気になる方は覗いてみてください。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  1. 近藤武.  “群論 岩波基礎数学選書” .初版.岩波書店.1991出版.p117-119,254-256.
  2. 雪江明彦. “代数学1 群論入門” .初版.日本評論社.2010出版.p101.

証明

次の性質[1],[2][1],[2]を証明していきましょう。

性質[1][1]
GD(G)G\vartriangleright D(G)で,G/D(G)G/D(G)は可換群である。

性質[2][2]
GNG\vartriangleright NかつG/NG/Nは可換群    \,\,\Leftrightarrow\,\,ND(G)N\supseteq D(G)

それでは証明です。

[証明] 性質[1][1]は性質[2][2]を示して,N=D(G)N=D(G)とおいて()(\Leftarrow)を用いると示せる。

よって性質[2][2]のみを示せばよい。

まず\Rightarrowについて示す。

G/NG/Nは可換群なので,任意のg,hGg,h \in Gについて
[g,h]N=ghg1h1N=N[g,h]N=ghg^{-1}h^{-1}N=Nが従う。

これは[g,h]N[g,h]\in Nと同値なので,NNGGの任意の交換子を含む。

D(G)D(G)GGのすべての交換子によって生成される群なので,D(G)ND(G) \subseteq Nとなり\Rightarrowは示された。

次に\Leftarrowについて示す。

ND(G)N\supseteq D(G)より任意のg,hGg,h \in Gについて
[g,h]=ghg1h1N[g,h]=ghg^{-1}h^{-1}\in Nである。

ここでhhの任意性からh=nNh=n\in Nとおくと,
gng1=Nn=Ngng^{-1}=Nn=Nとなり,これはGNG\vartriangleright Nを表す。

よって剰余群G/NG/Nが定義でき,[g,h]Nghg1h1N=NghN=hgN[g,h]\in N\,\Leftrightarrow\,ghg^{-1}h^{-1}N=N\,\Leftrightarrow\,ghN=hgNとなる。

これはG/NG/Nが可換群であることを表す。

したがって\Leftarrowも示されたので,証明は完了した。

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