【線形代数学】線形代数学の第二基礎定理とは? なぜ行列の積の定義は複雑なのか?まで含めて解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では線形代数学の第二基礎定理(the second foundational theorem of linear algebra)について解説したいと思います。
前回に引き続きこの定理の名前は著者の私が勝手に名付けたものですので,注意してください。
この第二基礎定理は「なぜ行列の積の定義は複雑なのか?」という問いの答えを提示してくれます。
「線形代数学」の名前の由来の答えとなる第一基礎定理は前回の記事で解説しているので,そちらを読んでいただけると嬉しいです。
理解を深めたい方は,「MathneQ ch.」という方が線形代数学の第一,第二基礎定理について,
Youtubeで詳しく解説した動画を挙げているので,そちらも参照するとよいと思います。
それでは解説していきます。
線形代数学の第二基礎定理(the second foundational theorem of linear algebra)
主張
線形代数学の第二基礎定理
\(K\)を体,\((m,n)\)行列\(A\)に対して,\(K^{n}\)から\(K^{m}\)への線形写像\(T_A\)を\(T_A(x)=Ax\)とする。
\((m,n)\)行列\(A\)と\((l,m)\)行列\(B\)によって定められた線形写像\(T_A:K^{n}\to K^{m},\,\,T_B:K^{m}\to K^{l}\)が存在したとする。
このとき\(K^{n}\)から\(K^{l}\)への合成写像\(T_B\circ T_A\)について
\(T_B\circ T_A=T_{BA}\)が成り立つ。
※体が分からない人は,実数や複素数の集合\(\mathbb{R},\,\mathbb{C}\)で考えましょう。
第二基礎定理は線形写像の合成が行列の積に対応することを表しています。
そのため第二基礎定理は「なぜ行列の積の定義は複雑なのか?」という問いの答えになっています。
なぜならこの定理が成り立つように行列の積の定義を定めたからです。
第一基礎定理の解説では,行列は「線形」写像を表す良い「代数」になっていると述べました。
それに対しこの第二基礎定理では,さらにより良い「代数」なっていることを述べているということですね。
- 線形写像の合成は行列の積に対応する。
- 行列は「線形」写像を非常に良く表す「代数」である。
証明
線形代数学の第二基礎定理の証明です。
紹介する証明は長いのですが,実際はもっと簡単に証明することができます(斎藤 線形代数などを参照)。
しかし線形写像の合成と,行列の積が一致することを実感してもらうために敢えて成分比較による証明を行っています。
その前に第一基礎定理の理解が十分でない方は前回の記事をまずご覧になってください。
それでは証明です。
\(T_B\circ T_A\)は\(K^{n}\)から\(K^{l}\)への線形写像なので,
第一基礎定理より\(T_B\circ T_A=T_C\)となる\((l,n)\)行列\(C\)が決定されます。
この行列\(C\)が\(BA\)となることを示せばよいですね。
この行列\(C\)がどのように決まるかは,第一基礎定理の証明の中で見たように,
\(T_B \circ T_A\)による\(e_1,\cdots,e_n\)の行先を見ればよいのでした。
よって\(T_B\circ T_A(e_j)\,\,(1\leq j \leq n)\)を調べましょう。
前回と同様に行列\(A\)の第\(j\)列\(m\)項ベクトル,行列\(B\)の第\(k\)列\(l\)項ベクトルを
\(a_j=\left(\begin{array}{c}a_{1j} \\ a_{2j} \\ \vdots \\ a_{mj}\end{array}\right)\),\(b_k=\left(\begin{array}{c} b_{1k} \\ b_{2k} \\ \vdots \\ b_{lk}\end{array}\right)\)
とおきます。\((1\leq j \leq n,\,\,1\leq k \leq m,\,\,1\leq i \leq l)\)
また\(K^{m}\)内の単位ベクトルを\(e’_1,\cdots,e’_m\)とおくと
と計算できます。
※\(\displaystyle \biggl(\sum^{m}_{k=1}a_{kj}b_{ik}\biggr)\)の表記は,\(k\)行目の成分が\(\displaystyle \sum^{m}_{k=1}a_{kj}b_{ik}\)である\(l\)項列ベクトルを表すものとして書いています。\(\displaystyle \biggl(\sum^{m}_{k=1}b_{ik}a_{kj}\biggr)\)も同様です。
よって行列\(C\)の\((i,j)\)成分は\(\displaystyle \sum^{m}_{k=1}b_{ik}a_{kj}\)となり,これは行列\(BA\)の\((i,j)\)成分と一致します。
※正確な言い方をすれば,「一致するように積の定義を定めました」となります。
したがってこれにて証明終了です。
応用
第二基礎定理により,(線形)写像の世界の言語を,行列の世界の言語に翻訳することができます。
例えば第二基礎定理でそのまんま述べているように
「写像の合成\(\,\,\leftrightarrow\,\,\)行列の積」となっています。
その他,二番目のもの以外第二基礎定理から分かるとは限らないのですが
「恒等写像\(\,\,\leftrightarrow\,\,\)単位行列」
「逆写像が存在する\(\,\,\leftrightarrow\,\,\)逆行列が存在する」
「写像の像の次元\(\,\,\leftrightarrow\,\,\)階数」
と対応します。
線形写像の世界と行列の世界はつながっている。
まとめ
今回の記事では線形代数学の第二基礎定理を解説いたしました。
行列が「線形」写像を表す非常に良い「代数」になっていることを理解していただけたでしょうか。
これまでの第一,第二基礎定理と
次の記事で解説している第三基礎定理をもとに,
基底の取り替えや表現行列の話が展開されるので,最後の記事も見ていただけると嬉しいです。
また冒頭でも紹介したMathneQ ch.さんの動画もかなり分かりやすいので,そちらも参照するとよいでしょう。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。