【代数学】標数とは? 体論における基礎知識を解説
こんにちは!半沢です!
今回の記事では
ある標数で成り立っていた定理が,別の標数上では成り立たないことがよく起こります。
この記事では,なぜそれが起こるのかも含めて,標数の性質から解説していきたいと思います。
ぜひ読んでいってください。
標数(characteristic)
標数について学んでいきましょう。
定義
まずは定義を確認していきましょう。
これらの2つの定義は一致することに注意しましょう。
(「証明」に一致性についての証明は載せております。)
定義\([1]\)
\(1_K\)を\(n\)回加えると\(0_K\)となるような自然数\(n\)のうち,
最小の数を\(K\)の標数と呼び,\(\mathrm{ch}K\)で表す。
ただし\(1_K\)を何回加えても\(0_K\)とならないときは,標数を\(0\)と定める。
定義\([2]\)
環準同型写像\(\phi:\mathbb{Z}\to K,\quad n\mapsto n\cdot 1_K\)について,\(\mathrm{Ker}(\phi)\)は\(\mathbb{Z}\)の素イデアルとなる。
故に素数\(\,p\,\)があり\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)もしくは\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)となるので,
\(K\)の標数\(\mathrm{ch}K\)を
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)のとき,\(p\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)のとき,\(0\)として標数を定める。
性質
標数の重要な性質は下のようになります。
- 標数は\(0\)か素数である。
- 標数が\(0\)なら\(\mathbb{Q}\),\(p\)なら\(\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)を含むとみなせる。
- 異なる標数を持つ体の間に準同型写像は存在しない。
- \(p(=p\cdot 1_K)=0\)が成り立つ。
- \((x+y)^p=x^p+y^p\)が成り立つ。
- \(1/p\)は\(K\)の中に存在しない。
- 自然数\(\,n\,\)は\(\,p\,\)で割り切れない\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)\(\overline{K}\)は\(1_K\)の原始\(n\)乗根を含む。
ここからは体\(K\)について\(\mathrm{ch}K=p\,\)(\(p\)は素数)とする。
※\(\overline{K}\)は\(K\)の代数閉包を表します。
まずは性質①についてですが,これは定義\([2]\)の中で軽く証明してあるので,
そちらをご確認ください。
性質②についてです。
標数は任意の体で存在するので,この性質から,
最小の体として,
標数が\(0\)ならとして\(\mathbb{Q}\),
\(p\)なら\(\mathbb{F}_p\)を含むことが分かります。
この最小の体\(\mathbb{Q}\)や\(\mathbb{F}_p\)のことを素体と呼びます。
つまり標数はどの素体を含んでいるのか教えてくれる数と言えます。
証明は定義\([2]\)内の環準同型\(\phi\)に対して,準同型定理を用いると\(\mathrm{Im}(\phi)\cong \mathbb{Q} \,\mathrm{or} \,\mathbb{F}_p\)となることから証明されます。
性質③はまさに標数が「
(英語では「特徴量(characteristic)」となっています)。
なぜなら性質③は,標数が異なる体はつながらないことを表しているからです。
証明は「証明」に載せておきます。かなり簡単なので,読んでみてください。
性質④については定義\([1]\)そのまんまです。
性質⑤についてです。
この式は計算で使用するので,理解しておきましょう。
証明は簡単で二項定理より
\((x+y)^p=x^p+{}_p\mathrm{C}_1+\cdots+{}_p\mathrm{C}_{p-1}+y^p\)となります。
ここで\({}_p\mathrm{C}_{i}\,(1\leq i \leq p-1)\)は\(p\)の倍数となる(証明略)ので,
性質④よりすべて\(0\)になり\(x^p,y^p\)だけが残ります。
したがって\((x+y)^p=x^p+y^p\)となります。
性質⑥についてです。
この性質⑥は「\(1/p\)を使うことができない」ということなので,
標数によって成り立つ定理が異なる理由の一因となっています。
ですので筆者としては覚えてほしい性質になります。
証明は,
性質④より\(p=0\)となり\(0\)は逆元を持たないので,\(1/p\)も存在しない,
となります。
最後に性質⑦についてです。
これは「\(n\)が\(p\)で割り切れれば,\(1\)の原始\(n\)乗根を使うことができない」ことを表しています。
よってこれも,標数によって成り立つ定理が異なる理由の一因となっています。
もちろんこれも絶対に覚えておきましょう。
証明はかなり長いので,「証明」に載せておきます。
まとめ
今回の記事では「標数」について解説して参りました。
標数は体論における基礎の概念なので,絶対に理解しておきましょう。
また「性質」で挙げた,標数\(p\)の体について「\(1/p\)は存在しない」「\(n\)は\(p\)で割り切れない\(\Leftrightarrow\)\(K\)は\(1\)の原始\(n\)乗根を含む」ことは,定理に地味に効いてくるので一番理解してほしいです。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
最後に詳しい証明も載せているので,余裕があればご覧になってください。
証明
ここでは記事の中で証明しきれなかった,定義\([1]\)と\([2]\)の同値性,性質③,⑦の証明を行いたいと思います。
定義\([1]\)
\(1_K\)を\(n\)回加えると\(0_K\)となるような自然数\(n\)のうち,
最小の数を\(K\)の標数と呼び,\(\mathrm{ch}K\)で表す。
ただし\(1_K\)を何回加えても\(0_K\)とならないときは,標数を\(0\)と定める。
定義\([2]\)
環準同型写像\(\phi:\mathbb{Z}\to K,\quad n\mapsto n\cdot 1_K\)について,\(\mathrm{Ker}(\phi)\)は\(\mathbb{Z}\)の素イデアルとなる。
故に素数\(p\)があり\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)もしくは\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)となるので,
\(K\)の標数\(\mathrm{ch}K\)を
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)のとき,\(p\)
\(\mathrm{Ker}(\phi)=(0)\)のとき,\(0\)として標数を定める。
性質⑦ 自然数\(\,n\,\)は\(\,p\,\)で割り切れない\(\,\,\Leftrightarrow\,\,\)\(\overline{K}\)は\(1_K\)の原始\(n\)乗根を含む。
まず定義\([1],[2]\)の一致性についての証明です。
そのため標数が\(0\)でないときの一致性を示せばよい。
よってどちらの定義においても,標数が\(0\)でないものとする。
体\(K\)にたいして,定義\([1],[2]\)のそれぞれの条件を満たすような自然数\(\,n\,\)と素数\(\,p\,\)を取ってくる(標数はその定義より存在性は保障されているので取れる)。
この\(\,n,p\,\)が一致することを示せばよい。
\(p\,\)の条件から\(p\cdot 1_K =0\)であり,\(n\)はそのような自然数のうち最小のものなので,\(n\leq p.\)
また\(n\cdot 1_K=0\)であるので,\(n\in \mathrm{Ker}(\phi)=(p)\)となる。
よってある整数\(\,a\,\)が存在して\(n=pa\)となるが,\(n,p\,\)は自然数より\(a\gt 0\),つまり\(a \geq 1\)となる。
\(a\geq 1\)より\(n=pa\geq p\)となる。
\(n\leq p,n\geq p\)より\(n=p\)となり,確かに\(\,n,p\,\)は一致する。
したがって題意は示された。
次は性質③についての証明となります。
この証明では定義\([1]\)を基に証明しています。
[証明] 対偶法により証明を行う。
対偶を定式化すると「体\(K,L\)の間の準同型\(\psi:K\to L\)が存在する\(\,\Rightarrow\,\)\(\mathrm{ch}K=\mathrm{ch}L\)」となることを確認しておく。
体から体(環)への準同型は単射なので,\(\psi\)も単射であることに注意すると,
任意の自然数\(n\)について次の同値変形が成り立つ。
※特に上の画像の二行目の同値変形の\(\Leftarrow\)に単射性が用いられている。
\(K,L\)の少なくとも片方の標数が\(0\)のときは,この同値式より,もう片方も標数\(0\)となり一致することがわかる。
どちらの標数も\(0\)でない場合は
この同値式\(\,\,n\cdot 1_K=0_K\Leftrightarrow n\cdot 1_L=0_L\)の\(\,n\,\)として\(\mathrm{ch}K,\mathrm{ch}L\)を代入し,
標数の最小性から\(\,\,\mathrm{ch}K \leq \mathrm{ch}L,\,\mathrm{ch}K \geq \mathrm{ch}L\)となる。
よってこのときも\(\,\,\mathrm{ch}K = \mathrm{ch}L\)となる。
したがって題意は示された。
最後は性質⑦の証明になります。
\(1_K\)を簡単のために\(1\)と書くことにします。
[証明] \(\Leftarrow\)について
対偶法で示す。
対偶は「自然数\(n\)は\(p\)で割り切れる\(\Rightarrow\)\(\overline{K}\)は\(1\)の原始\(n\)乗根を含まない」となることを確認しておく。
任意の\(1\)の\(n\)乗根\(\omega\in \overline{K}\)について,\(\omega^n-1=0\)である。
\(n\)は\(p\)で割り切れるので,自然数\(s\,(1\leq s \lt n)\)を用いて\(n=ps\)と書ける。
よって性質⑤の式\((x+y)^p=x^p+y^p\)を用いると,
\(\omega^n-1=(\omega^{s})^{p}+(-1)^{p}=(\omega^{s}-1)^p\)となる。
※\(p=2\)のときも,標数\(2\)となり\(-1=+1\)なので,この式変形は成り立ちます。
つまり\((\omega^{s}-1)^p=0\),すなわち\(\omega^{s}=1\)となる。
この式と\(1\leq s \lt n\)は,任意の\(1\)の\(n\)乗根\(\omega\)は\(1\)の原始\(n\)乗根となりえないことを表している。
したがって\(\Leftarrow\)は示された。
\(\Rightarrow\)について
\(f(x)=x^n-1\)とおき,この多項式の根を\(\omega\in \overline{K}\)とおく。
\(f'(x)=nx^{n-1}\)より\(f'(\omega)=n\omega^{n-1}\)となる。
\(f'(\omega)=0\)と仮定すると,\(n\omega^{n-1}=0\)で\(n\)は\(p\)で割り切れないことから\(\,n\not=0\)
ゆえに\(\omega^{n-1}=0\)となるが,両辺に\(\omega\)をかけることで,\(1=\omega^{n}=0\)となり矛盾するので,\(f'(\omega)\not=0\)
※\(0=1\)となる体である\(\{0\}\)も広義で言えば体ですが,そのようなつまらない体は除くものとしています。
つまり\(f(x)\)の任意の根\(\omega\)について
\(f(\omega)=0\Rightarrow f'(\omega)\not= 0\)が示された。
よって\(f(x)\)は重根を持たない。
つまり\(\overline{K}\)には相異なる\(n\)個の\(1\)の\(n\)乗根がある。
これらを集めた集合\(G\)は乗法群\(\overline{K}^{\times}\)の位数\(n\)有限部分群となる。
乗法群は可換なので\(G\)も可換となり,有限アーベル群の基本定理より
\(G\cong\mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z}\)となる自然数\(s\),\(2\)以上の自然数\(e_1,\cdots,e_s\)で,
\(1 \leq i \leq s-1\)に対し\(e_{i+1}\)を\(e_i\)で割り切るものが存在する。
もしも\(s\geq 2\)とすると\(e_2\)は\(e_1\)で割り切れるので,\(e_1\)を割り切る素数\(p\)(存在性は\(e_1\geq 2\)よりOK)を取ってくると,\(e_2\)は\(p\)で割り切れる。
これより\(G\)には位数が\(p\)の約数であるような元が少なくとも,\(p^{2}\)個存在することが言える。
※ここは行間がやや跳んでいるように感じるかもしれないので,具体例を交えて少し補足します。
例えば\(p=3\)のときは\(\mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z}\)で,
その元を第三成分以降を省略して書くと
\((0,0),(\tfrac{e_1}{3},0),(\tfrac{2e_1}{3},0),\)
\((0,\tfrac{e_2}{3}),(\tfrac{e_1}{3},\tfrac{e_2}{3}),(\tfrac{2e_1}{3},\tfrac{e_2}{3}),\)
\((0,\tfrac{2e_2}{3}),(\tfrac{e_1}{3},\tfrac{2e_2}{3}),(\tfrac{2e_1}{3},\tfrac{2e_2}{3})\)
の\(9\)個の元に対応する\(G\)の元を取ってくるということになります。
これより\(x^{p}-1\)の根の数が\(p^{2}\)個以上あることになり,\(x^{p}-1\)は\(p\)次多項式なので矛盾。
したがって\(s=1\)となり,これは\(G\)が巡回群であることを表す。
よってその生成元を取ると,それは原始\(n\)乗根となり,\(\Rightarrow\)は示された。
したがって題意は示された。