【解析学】上極限とは? 上極限の定義からイメージまで解説
こんにちは!半沢です!
この記事では解析学における上極限(limit superior)について解説したいと思います。
下極限については,別の記事(現在制作中)で解説するので,そちらを参照していただけると嬉しいです。
普通の極限と異なり,上極限は\(\pm\infty\)まで含めると必ず存在するという非常に良い性質を持っています。
今回はそんな上極限の定義をイメージが持てるように解説いたします。
ぜひ読んでいってください。
上極限(limit superior)
様々な定義
それでは上極限の定義を確認していきましょう。
数列\(\{a_{n}\}\)が有界な実数列であるときの定義は以下のようになります。
※複数の定義が出ますが,これらは同値(本質的に同じ)です。
数列\(\{a_{n}\}\)に対し,
集合\(A_{n}\)を\(A_{n}\coloneqq \{a_{k}|k\geq n\}\),実数列\(\{\alpha_{n}\}\)を\(\alpha_{n}\coloneqq \sup A_{n}\)を定めたとき,
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} \alpha_{n}\)を上極限と呼び,\(\displaystyle\limsup_{n\to\infty} a_{n}\)もしくは\(\displaystyle\varlimsup_{n\to\infty} a_{n}\)と表す。
定義\([2]\)
数列\(\{a_{n}\}\)の部分列の極限となる値(集積値)のうち最大のものを上極限と呼ぶ。
定義\([3]\)
\(\alpha\)に収束する数列\(\{a_{n}\}\)の部分列が存在し,
\(\alpha\)より大きい値には収束する部分列が存在しないような\(\alpha\)を上極限と呼ぶ。
定義\([4]\)
実数値\(\alpha\)が次の2条件を満たすとき,\(\alpha\)を上極限と呼ぶ。
\((\mathrm{i})\) 任意の実数\(\epsilon > 0\)に対して,ある自然数\(N\)が存在して,
任意の自然数\(n\)について \(n\geq N \Rightarrow a_{n} \lt \alpha+\epsilon\)が成り立つ。
\((\mathrm{ii})\) 任意の実数\(\epsilon > 0\)と自然数\(N\)に対して,
\(\alpha-\epsilon\lt a_{n} \)となる自然数\(n \geq N\)が存在する。
※定義\([1]\)はよく簡略化して,\(\displaystyle\limsup_{n\to\infty} a_{n}\coloneqq\lim_{n\to\infty}\biggl(\sup_{k\geq n} a_{k}\biggr)\)と書かれることが多いです。
どの定義を採用するかはそれぞれの定義のメリットを見てから,決めると良いでしょう。
余談として数列\(\{a_{n}\}\)が有界でない実数列のときの定義について話せば,
定義\([1]\sim[4]\)を\(\pm\infty\)まで実数として扱うような補完数直線上で考えることで定義されます。
気になる方用に\(\{a_{n}\}\)が有界でないときの上極限の結果を紹介しておきます。
\(\displaystyle\limsup_{n\to\infty} a_{n}=-\infty\,\Rightarrow\,\{a_{n}\}\)が下に有界でない
上は\(\Leftrightarrow\)ですが,下は\(\Rightarrow\)であることに注意です。
もっと詳細に知りたい方は参考図書をお確かめください。
イメージ
それでは上極限のイメージです。
まず定義\([1]\)です。
数列\(\{a_{n}\}\)に対し,
集合\(A_{n}\)を\(A_{n}\coloneqq \{a_{k}|k\geq n\}\),実数列\(\{\alpha_{n}\}\)を\(\alpha_{n}\coloneqq \sup A_{n}\)を定めたとき,
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} \alpha_{n}\)を上極限と呼び,\(\displaystyle\limsup_{n\to\infty} a_{n}\)もしくは\(\displaystyle\varlimsup_{n\to\infty} a_{n}\)と表す。
\(\sup\)は最大値をとるような操作と言えますので,
定義\([1]\)のイメージをかなり砕けて言えば,
できる限り収束値が大きくなるような数列\(\{a_{n}\}\)の部分列をとることを定式化したようなイメージと言えます。
そのため定義\([2],[3]\)と同値であることも自然であるように感じられます。
また定義\([2],[3]\)のイメージは定義通りに行えばよいので,
次は定義\([4]\)のイメージについて解説しましょう。
実数値\(\alpha\)が次の2条件を満たすとき,\(\alpha\)を上極限と呼ぶ。
\((\mathrm{i})\) 任意の実数\(\epsilon > 0\)に対して,ある自然数\(N\)が存在して,
任意の自然数\(n\)について \(n\geq N \Rightarrow a_{n} \lt \alpha+\epsilon\)が成り立つ。
\((\mathrm{ii})\) 任意の実数\(\epsilon > 0\)と自然数\(N\)に対して,
\(\alpha-\epsilon\lt a_{n} \)となる自然数\(n \geq N\)が存在する。
定義\([4]\)はかなり砕けた言い方をすれば,次のように書き換えられます。
実数値\(\alpha\)が次の2条件を満たすとき,\(\alpha\)を上極限と呼ぶ。
\((\mathrm{i})\) \(\alpha\)より少しでも大きい(\(\alpha+\epsilon\)より大きい)ところには\(a_{n}\)は有限個しか存在しない。
\((\mathrm{ii})\) \(\alpha\)のどんな近いところ(開区間\((\alpha-\epsilon,\alpha+\epsilon)\))でも\(a_{n}\)は無限個存在する。
図にすると次のようになります。
定義\([3]\)の言葉を借りて言えば,
\((\mathrm{i})\)は「\(\alpha\)より大きい値には収束する部分列が存在しない」を,
\((\mathrm{ii})\)は「\(\alpha\)に収束する数列\(\{a_{n}\}\)の部分列が存在する」を
\(\epsilon\text{-}N\)論法で表したものと言えます。
※余談として定義\([4]\)の条件(\(\mathrm{i}\))は
極限\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} a_{n}=\alpha\)の条件に似ていることを述べておきます。
それぞれの定義のメリット
定義とそのイメージを確認できたところで,それぞれの定義のメリットをまとめておきましょう。
- 定義\([1],[2],[3]\)のメリット
- イメージがしやすい
- 上極限\(\limsup_{n\to\infty} a_{n}\)の存在を示しやすいなど,定義をするのが楽
- 上極限を応用するときに,大変扱いやすい
定義\([4]\)のメリット
定義\([1],[2],[3]\)の「定義をするのが楽」については
実際に性質で行う存在性の証明では定義\([1]\)により,スッキリした証明になっています。
定義\([4]\)のメリットは,上極限用いた証明をするときは,ほぼこの定義を利用するということです。
それは単に議論がしやすいからですね。
そのような意味で「大変扱いやすい」と書いております。
そのため筆者といたしましては,読者に定義\([4]\)を一番覚えていただきたいと思います。
性質
この節では上極限の代表的な性質の2つを紹介します。
- 上極限の性質
- 上極限は\(\pm\infty\)を含めると,必ず存在する。
- 数列\(\{a_{n}\}\)の上極限と下極限が一致する\(\,\Leftrightarrow\,\)極限\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} a_{n}\)が存在する。
証明は①を有界な実数列の場合のみ示すことに留めたいと思います。
完全な証明などをご覧になりたい方は参考図書をご覧ください。
このとき集合\(A_{n}\coloneqq \{a_{k}\,|\,k\geq n\}\)は明らかに\(A_n\supset A_{n+1}\)である。
\(\{a_n\}\)は上に有界なので,任意の\(n\)について\(A_{n}\)にはその上限が存在する。
よってそれを\(\alpha_{n}\coloneqq \sup A_{n}\)とおくと,
\(A_n\supset A_{n+1}\)より\(\alpha_n \geq \alpha_{n+1}\)。
つまり実数列\(\{\alpha_n\}\)は単調減少数列である。
また\(\{a_n\}\)は下にも有界なので,\(\{\alpha_n\}\)も下に有界である。
下に有界な単調減少列は収束するので,\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} \alpha_n=\alpha\)となるような実数\(\alpha\)が存在する。
したがって①は示された。
まとめ
この記事では上極限のイメージや代表的な性質を中心に,
上極限を解説してきました。
最もイメージしやすいのは定義\([1],[2],[3]\)だと思いますが,
最も役立つのは定義\([4]\)なので,
定義\([4]\)を身に付けていただいたら筆者としては大変満足です。
もし説明がわかりにくいなどご要望がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
最後に参考図書を挙げているので,定義の同値性などが気になった方などはそちらを参照するとよいでしょう。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考図書
[1]杉浦光夫.”解析入門\(\mathrm{I}\)”.初版.東京大学出版.出版1980.428p.
[2]高木貞二.”定本 解析概論”.初版.岩波書店.出版2010.523p.