【群論】可解群とは? なぜ方程式の可解性と関係するのか?まで解説

2023.12/10

こんにちは!半沢です!

この記事では群論における可解群(solvable group)について解説したいと思います。

可解群は方程式の可解性をつかさどる非常に重要な群です。

この記事では可解群の定義から,どうして方程式の可解性と関係していくるのかまで含めて解説いたします。

可解群の性質や具体例を知りたい!という方は続編を作成したので,ぜひそちらをご覧になっていただけると嬉しいです。

ぜひ読んでいってください。

可解群(solvable group)

様々な定義

まずは可解群(solvable group)の定義を確認していきましょう。

複数の定義を書きますが,これらは同値(本質的に同じ)です。

証明は最後に同値性の証明でまとめているので,気になる方はチェックしてみてください。

定義\([1]\)
群\(G\)の正規部分群の列(正規列)\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(i=1,2,\dots,n\)について
\(G_{i-1}/G_{i}\)が可換群となるものが存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。

交換子群に理解のある方は次の定義\([2]\)も知っておくといいでしょう。

定義\([2]\)
\(D_{n}(G)=\{1_G\}\)となるような
\(G\)の\(n\)次交換子群\(D_{n}(G)\)が存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。

次の定義\([3],[4]\)は\(G\)が有限群のときのみに限ります。

定義\([3]\)
\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(G_{i-1}/G_{i}\)が巡回群となるものが存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。
定義\([4]\)
\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(G_{i-1}/G_{i}\)が素数位数の群となるものが存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。

定義のメリット・デメリットで各定義の長・短所を解説していますので,
どの定義を拠り所にするかはそこを見てから決めるといいでしょう。

可解群はどうして方程式の可解性と関係するのか?

それでは可解群について,ガロア理論を学んでいなくても理解できるように話していきたいと思います

最もイメージしやすいので,ここでは定義\([3]\)を採用します

定義\([3]\)
\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)で,
\(G_{i-1}/G_{i}\)が巡回群となるものが存在するとき,
\(G\)を可解群と呼ぶ。

ガロア理論を学んでいくと,「ガロア対応」に出くわします。

このガロア対応は「方程式の世界(体)」と「群の世界」の翻訳機のようなものです。

この翻訳機で方程式の可解性」を翻訳したものが「可解群」となるのです。

ざっくりと言えば,次の定理が成り立つわけです。

方程式\(f(x)=0\)が可解である。
\(\Leftrightarrow\)方程式\(f(x)=0\)に対応する群が可解群である。

この定理が成り立つように「可解群」の定義を定めたというわけです。

そこで逆に「可解群」を方程式の世界へ翻訳してみると,
可解群が何を表しているのか分かりやすくなります。

翻訳すると
「\(G\)の正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)」は,
解へと辿りつく道のりを表し,

\(G_{i-1}/G_{i}\)が巡回群となる」は,
要するに「\(G_{i-1}/G_{i}\cong \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\)」となり,
べき根\(\sqrt[n]{\quad}\)をとる操作を表していると言えます。

このように方程式の可解性」を群の言葉で翻訳したものが「可解群というわけです。

    可解群は「方程式の可解性」を群の言葉に翻訳したもので,

  • 正規列\(\to\)解への道のり
  • 剰余巡回群\(\to\)べき根\(\sqrt[n]{\quad}\)をとる操作
  • を表している。

定義のメリット・デメリット

ここでは,それぞれの定義のメリットデメリットを確認していきましょう。

定義\([1]\sim[4]\)の順番通りお話しします。

    定義\([1]\)
    メリット

  • 多くの教科書で可解群の定義として採用されている
  • 見かけの条件が最も緩い
  • デメリット

  • イメージがしづらい

「定義\([3],[4]\)に比べ,見かけの条件が最も緩い」については
「素数位数の群\(\Rightarrow\)巡回群\(\Rightarrow\)可換群」がほぼ明らかであるため,
\([4]\Rightarrow[3]\Rightarrow[1]\)も明らかという意味で書いています。

また「イメージしづらい」は,私の個人的なものですが,
可解群はどうして方程式の可解性と関係するのか?
定義\([1]\)で説明するのは難しいと感じているからです。

続いて定義\([2]\)ですが,私自身よく分かっているとは言えないので,
半信半疑程度に聞いてください
※誰か自信のある方がいたら教えてください。

    定義\([2]\)
    メリット

  • 可解群の判定が楽
  • デメリット

  • イメージがしづらい

可解群の判定が楽」とは,
\(D\)を作用させるという機械的な操作で,可解群の判定ができるからです。

例えば,定義\([1]\)で可解群でないことを示すには,
条件を満たすような正規列が存在しないことを示さなくてはなりません。

しかし,存在しないことを示すのは一般には難しいです。

一方,定義\([2]\)では\(D\)を作用させ続けても\(\{1_G\}\)とならないことを言えば良いので,
定義\([1]\)に比べ示すのが楽ということです。

    定義\([3]\)
    メリット

  • イメージがしやすい
  • デメリット

  • みかけの条件が,定義[1]に比べ強い

イメージがしやすい」は可解群はどうして方程式の可解性と関係するのか?で解説した通りのことです。

    定義\([4]\)
    メリット

  • イメージがややしやすい
  • デメリット

  • みかけの条件が最も強い

まとめ

この記事では可解群はどうして方程式の可解性と関係するのか?といったイメージまで含めて
可解群を解説してきました。

皆さんにとって腑に落ちるイメージになっていると感じていただけると幸いです。

ここでは主に可解群の定義・イメージについて話してきましたが,
性質・具体例を中心に扱った続編もぜひご覧ください。

もし説明がわかりにくいなどご要望がありましたら,
X(旧:Twitter)で#トイカラでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

一応補足として「同値性の証明」もありますので,気になる方は覗いてみてください。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

同値性の証明

それでは同値性の証明です。

下の図のようにして同値性を示していきましょう。

※\([1]\Leftrightarrow[2]\)の証明は交換子群の性質を,
\([1]\Rightarrow[4]\)では有限アーベル群の基本定理や第三同型定理を用いるなど
かなり難しい証明なので群論に慣れている方でないと分かりづらいかもしれません

[証明] \((\mathrm{i})[1]\Rightarrow[2]\)について

仮定より,
群\(G\)の可換正規列\(G=G_0\vartriangleright G_1\vartriangleright\cdots\vartriangleright G_n=\{1_G\}\)が存在する。
\((i=1,2,\dots,n)\)

このとき\(G_{i-1}\vartriangleright G_{i}\)かつ\(G_{i-1}/G_{i}\)は可換群という条件から,
交換子群の性質より\(D(G_{i-1})\subset G_{i}\)である。

\(D(G_{i-1})\subset G_{i}\)を利用して\(D_{i}(G)\subset G_{i}\)を示せば,
\(i=n\)とすることで\(D_{n}(G)\subset\{1_G\}\),
すなわち\(D_{n}(G)=\{1_G\}\)が分かり,\([1]\Rightarrow[2]\)は示される。

よって\(D_{i}(G)\subset G_{i}\,(i=1,2,\dots,n)\)を,\(i\)についての数学的帰納法で示す。

\(i=1\)のとき(\(D(G_{0})\subset G_{1}\)で\(G=G_{0}\)より,
\(D_{1}(G)\subset G_{1}\)が成り立つ。

\(i=k-1\,(k=1,2,\dots,n)\)のとき仮定が成り立つ,
すなわち\(D_{k-1}(G)\subset G_{k-1}\)とする。

このとき両辺に\(D\)を作用させることで\(D(D_{k-1}(G))=D_{k}(G)\subset D(G_{k-1})\)が得られる。

ここで\(D(G_{i-1})\subset G_{i}\)に\(i=k\)を代入して,\(D(G_{k-1})\subset G_{k}\)であることがわかる。

先ほどの包含関係と組み合わせて\(D_{k}(G)\subset D(G_{k-1})\subset G_{k}\)となる。

よって\(i=k\)のとき,\(D_{k}(G)\subset G_{k}\)は示された。

以上より\([1]\Rightarrow[2]\)は示された。
\((\mathrm{ii})[2]\Rightarrow[1]\)について

\(D_{n}(G)=\{1_G\}\)という仮定より,
部分群列\(G=G_0\supset G_1\supset\cdots\supset G_n=\{1_G\}\,(i=1,2,\dots,n)\)を
\(G_{i}=D_{i}(G)\)として定めることができる。

つまり交換子列を取った。

交換子群の性質より,上の部分群列は正規列となる。

さらに\(G_{i-1}/G_{i}=D_{i-1}(G)/[D_{i-1}(G),D_{i-1}(G)]\)であるので,
これも交換子群の性質より可換群となる。

以上より\([2]\Rightarrow[1]\)は示された。
\((\mathrm{iii})[1]\Rightarrow[4]\)について

\(G\)は有限群であるので,剰余群\(G_{i-1}/G_{i}\)も有限群。

故に有限アーベル群の基本定理より,
素数\(p_{i1},\cdots,p_{it_{i}}\)(重複あり)と正の整数\(a_{i1},\cdots,a_{it_{i}}\)があり,
\(G_{i-1}/G_{i}\cong \mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)となる。

そこで\(G_{i-1}/G_{i}\cong \mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)の中の部分群について考えると,
次のような部分群列がとれる。

\(H_{i0}=\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times \mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)
\(H_{i1}=p_{i1}^{1}\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times \mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)
  \(\vdots\)
\(H_{ia_{i1}}=p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times \mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)
\(H_{i(a_{i1}+1)}=p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times p_{i2}^{1}\mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)
  \(\vdots\)
\(H_{i(a_{i1}+a_{i2})}=p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)
  \(\vdots\)
\(H_{i(a_{i1}+a_{i2}+\cdots+a_{it_{i}})}=p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}/p_{i2}^{a_{i2}}\mathbb{Z}\times\cdots\times p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}=\{1\}\)

\(\mathbb{Z}/p_{i1}^{a_{i1}}\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/p_{it_{i}}^{a_{it_{i}}}\mathbb{Z}\)は可換群なので,この部分群列は自動的に正規列となる。

さらにこのとき,隣り合う部分群の剰余群は素数位数の群となっている。

つまり\(j=1,2,\cdots,a_{i1}+a_{i2}+\cdots+a_{it_{i}}\)について,
\(H_{i(j-1)}/H_{ij}\)は素数位数の群ということである。

※例えば\(H_{i0}/H_{i1}\)は\(H_{i0}/H_{i1}\cong \mathbb{Z}/p_{i1}\mathbb{Z}\)より,位数が素数\(p_{i1}\)となっている。

この正規列を同型によって,\(G_{i-1}/G_{i}\)の正規列とみなす。

さらに剰余群の部分群と元の群の部分群の対応より,
この剰余群\(G_{i-1}/G_{i}\)の正規列に対して,
\(G_{i-1}\)の内での\(G_{i}\)を含むような正規列を取ることができる。

その正規列を\(G_{i-1}=G_{i0}\vartriangleright G_{i1}\cdots\vartriangleright G_{i(a_{i1}+a_{i2}+\cdots+a_{it_{i}})}=G_{i}\)とおくとする。
※\(G_{i-1}=G_{i0},\,\, G_{i(a_{i1}+a_{i2}+\cdots+a_{it_{i}})}=G_{i}\)の等式はその取り方から従うので問題なし。

ここで\(G_{i-1}\vartriangleright G_{i}\)より\(G_{ij}\vartriangleright G_{i}\)となるので,
剰余群\(G_{ij}/G_{i}\)を定義することができる。

故に有限アーベル群の基本定理から得られた同型より,
\((G_{ij}/G_{i})/(G_{i(j+1)}/G_{i})\cong H_{ij}/H_{i(j+1)}\)であることに注意する。

\(G_{ij}\vartriangleright G_{i(j+1)},G_{i}\) かつ \(G_{i}\subset G_{i(j+1)}\)なので,
第三同型定理より\(G_{ij}/G_{i(j+1)}\cong (G_{ij}/G_{i})/(G_{i(j+1)}/G_{i})\)であるので,
\(G_{ij}/G_{i(j+1)}\cong H_{ij}/H_{i(j+1)}\)。

\(H_{ij}/H_{i(j+1)}\)は素数位数の群であったので,\(G_{ij}/G_{i(j+1)}\)も素数位数の群となる。

つまり各\(i\)について
正規列\(G_{i-1}=G_{i0}\vartriangleright G_{i1}\cdots\vartriangleright G_{i(a_{i1}+a_{i2}+\cdots+a_{it_{i}})}=G_{i}\)で,
その隣合う群の剰余群が素数位数の群となるものがとれることが示された。

それらをつなげることで,\(G\)の正規列として
\(G=G_{0}=G_{10}\vartriangleright G_{11} \vartriangleright \cdots \vartriangleright G_{1(a_{11}+a_{12}+\cdots+a_{1t_{1}})}=G_{1}\)
\(G_{1}=G_{20}\vartriangleright G_{21} \vartriangleright \cdots \vartriangleright G_{2(a_{21}+a_{22}+\cdots+a_{2t_{2}})}=G_{2}\)
  \(\vdots\)
\(G_{n-1}=G_{n0}\vartriangleright G_{n1} \vartriangleright \cdots \vartriangleright G_{n(a_{n1}+a_{n2}+\cdots+a_{nt_{n}})}=G_{n}=\{1_{G}\}\)で,
その隣合う群の剰余群が素数位数の群となるものがとれる。

以上より\([1]\Rightarrow[4]\)は示された。
\((\mathrm{iv})[4]\Rightarrow[3]\)について

素数位数の群は巡回群なので,明らかに成り立つ。
\((\mathrm{v})[3]\Rightarrow[1]\)について

巡回群は可換群なので,明らかに成り立つ。

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